ザ・サイドワインダー (アルバム)

ザ・サイドワインダー (The Sidewinder)

概要

トランペット奏者、リー・モーガンによるリーダー・アルバムである。1963年12月21日に録音が行われ、翌1964年に名門ブルーノート・レコードからリリースされた。参加ミュージシャンは、モーガン自身に加え、テナー・サクソフォーンのジョー・ヘンダーソン、ピアノのバリー・ハリス、ベースのボブ・クランショウ、ドラムのビリー・ヒギンスという強力な布陣であった。

歴史的な商業的成功

本作は、リリースされるやいなや、ブルーノート・レコードにとって予想を遥かに超える商業的な成功を収めた。ジャズ作品としては異例の売れ行きを示し、1965年1月9日付のBillboard 200チャートでは最高位25位にランクインするという快挙を達成した。これはジャズ・アルバムとしては極めて高い順位であった。

また、アルバムタイトル曲「ザ・サイドワインダー」はシングルとしてもカットされ、こちらもBillboard Hot 100チャートで最高位81位を記録するヒットとなった。このアルバムの成功は、ブルーノート・レコード創設以来、最高の売上を記録しただけでなく、ジャズというジャンルにおける空前のベストセラーとなり、ジャズ・シーンに大きな衝撃を与えた。従来のジャズリスナー層を超えた幅広い層にアピールした証拠であり、ハード・バップ期におけるジャズの商業的な可能性を再認識させる出来事であった。

革命的なタイトル曲

アルバムの成功を牽引したのは、紛れもなく表題曲「ザ・サイドワインダー」である。この楽曲は、従来のジャズにはあまり見られなかった、どこかニューオーリンズのR&Bを思わせるノリの良い8ビートのリズムを大胆に取り入れている。ジャズの洗練された演奏技術と、ロック的なダイナミズム、そしてR&Bのグルーヴが見事に融合したサウンドは、「ジャズ・ロック調」と評され、発表当時としては非常に新鮮で革新的な響きを持っていた。

キャッチーなメロディーと、体を自然に揺らすグルーヴ感は、ジャズファンだけでなく、より幅広い層の音楽愛好家に受け入れられた。その人気は音楽界に留まらず、1965年にはアメリカの自動車メーカー、クライスラー社のテレビCMに起用されるという、当時のジャズ曲としては異例の事態となった。これにより、「ザ・サイドワインダー」の知名度はさらに飛躍的に向上した。

発表から半世紀以上を経た現在でも、この楽曲はジャズ・スタンダードとして世界中で愛され、数え切れないほどのミュージシャンによってライブやレコーディングで演奏され続けている。近年においても、日本国内で制作されたテレビCMにおいて、カバー・バージョンがBGMとして使用されるなど、その楽曲の魅力は時代を超えて多くの人々に響き続けている。

収録曲構成

アルバムに収録されている楽曲は全て、リー・モーガン自身が作曲を手掛けている。オリジナルLP盤には以下の5曲が収められた。

"The Sidewinder" (ザ・サイドワインダー)
"Totem Pole" (トーテム・ポール)
"Gary's Notebook" (ゲイリーズ・ノートブック)
"Boy, What a Night" (ボーイ・ホワット・ア・ナイト)
"Hocus-Pocus" (ホーカス・ポーカス)

後にCDなどで再発された際には、録音セッションからのボーナス・トラックとして、以下の別テイクが追加収録されることがある。

"Totem Pole" (alternate take) (トーテム・ポール 別テイク)

演奏メンバー

アルバムのサウンドを形作ったのは、リー・モーガン率いる以下の精鋭ミュージシャンたちである。

リー・モーガン (Lee Morgan) - トランペット
ジョー・ヘンダーソン (Joe Henderson) - テナー・サクソフォーン
バリー・ハリス (Barry Harris) - ピアノ
ボブ・クランショウ (Bob Cranshaw) - ベース
* ビリー・ヒギンス (Billy Higgins) - ドラム

ジャズ史における位置づけ

『ザ・サイドワインダー』は、トランペット奏者リー・モーガンの代表作としてだけでなく、1960年代のジャズを語る上で欠かせない重要なアルバムである。特にタイトル曲に見られる、当時の最新の音楽トレンドを取り入れつつジャズとして昇華させる手腕は、その後のクロスオーバー的な試みの先駆けとも言える。商業的な大成功は、それまでややマニアックなイメージもあったジャズが、より広いリスナー層にもアピールできる可能性を示し、多くのジャズ・ミュージシャンやレーベルに影響を与えた。ハード・バップの洗練されたアンサンブルと、新たなグルーヴやリズムの導入が見事に融合した本作は、今日でも多くの音楽ファンに愛聴され続けている。

もう一度検索