ザ・スパイ

『ザ・スパイ』：冷戦下のドイツ、運命のスパイゲーム

1966年、フランスと西ドイツが共同制作した映画『ザ・スパイ』（原題：L'espion、英題：The Defector）は、数々の名作をプロデュースしてきたラウール・レヴィが監督を務めた遺作として知られています。主演を務めたのは、ハリウッド黄金期のスター、モンゴメリー・クリフト。彼にとっても、これは最後の出演作品となりました。

本作は冷戦時代のドイツを舞台に、アメリカ人物理学者ジェームズ・バウワー教授（クリフト）の運命を描きます。東ドイツへの視察旅行中、教授はCIAや東ドイツの秘密機関に絡む複雑なスパイ活動に巻き込まれていきます。

教授は、西側に情報を売ろうとしていたロシア人物理学者グロシェンコと接触しようとするCIAから依頼を受けます。しかし、グロシェンコは殺害され、教授は東ドイツのスパイ、ピーター・ハインツマン（ハーディ・クリューガー）から亡命を迫られます。

ハインツマンは、ロシアの秘密機関に所属しながらも、教授を深く尊敬しており、複雑な心境を抱えています。教授は亡命を拒否しますが、殺害されたグロシェンコが持っていたマイクロフィルムを手に入れ、西ドイツへの脱出を図ります。そのマイクロフィルムは、古くて価値のない情報だったため、教授は危機を脱します。

冷酷なロシアの秘密機関ボス、オルコフスキー（デイヴィッド・オパトシュ）は、ハインツマンに教授の殺害を命じますが、教授への敬意を持つハインツマンは教授を逃がす手助けをします。しかし、オルコフスキーはハインツマンを殺害し、教授は、西ドイツへの亡命を果たすのです。

この作品は、単なるスパイ映画の枠を超えた、人間のドラマです。冷戦という時代背景の中で、それぞれの思惑と葛藤が複雑に絡み合い、観る者を惹きつけます。

監督のレヴィは、ブリジット・バルドーやマリナ・ヴラディをスターダムに押し上げた敏腕プロデューサーとして知られていました。しかし、本作の撮影後、わずか数ヶ月で拳銃自殺という悲劇的な最期を遂げました。そのため、本作はレヴィ監督の遺作であり、クリフトの死と相まって、作品に深い影を落としています。

興味深いことに、本作には、フランスのヌーヴェルヴァーグを代表する巨匠、ジャン＝リュック・ゴダールが二重スパイ役で出演しています。レヴィとゴダールは過去にもタッグを組んでおり、二人の関係性も本作の魅力の一つです。また、撮影監督には、ゴダールの『勝手にしやがれ』でも知られるラウール・クタールが起用され、その高い技術力も光ります。

『ザ・スパイ』は、冷戦時代の緊張感、スパイ活動の陰謀、そして登場人物たちの複雑な人間模様を巧みに描き出した、見応えのある作品です。レヴィとクリフトの悲劇的な最期を考えると、その意味はさらに深まります。残念ながら、日本ではビデオグラム化されていませんが、アメリカではDVDが発売されており、世界中でこの作品を鑑賞することができます。歴史的にも重要な作品として、ぜひ一度ご覧になってみてください。

主なキャスト

ジェームズ・バウワー教授：モンゴメリー・クリフト
アダムズ：ロディ・マクドウォール
ピーター・ハインツマン：ハーディ・クリューガー
サルツァー博士：ハンネス・メッセマー
フリーダ・ホフマン：マーシャ・メリル
オルコフスキー：デイヴィッド・オパトシュ

関連情報

監督：ラウール・レヴィ
製作国：フランス、西ドイツ
製作年：1966年
使用言語：英語

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