ザ・マサカー・オブ・マンカインド

『ザ・マサカー・オブ・マンカインド』は、イギリスのSF作家スティーヴン・バクスターによって2017年に世に送り出された、古典SFの金字塔たるH.G.ウェルズの『宇宙戦争』の正式な続編です。ウェルズの遺産管理団体から承認を得て執筆された本作は、オリジナルの物語から14年の時を経た1920年の地球を舞台に、再び訪れる火星からの脅威を描き出します。前作で恐るべき侵略の実態を語ったウォルター・ジェンキンスの元義理の姉妹にあたるジャーナリスト、ジュリー・エルフィンストンの視点を通して、その後の世界の変貌と新たな戦いの記録が語られます。バクスターはウェルズの他の代表作である『タイム・マシン』の続編、『タイム・シップ』も手掛けており、ウェルズ作品の世界観を拡張する手腕には定評があります。

最初の火星からの襲来から14年。人類はあの悪夢のような出来事を乗り越え、表面上は平穏を取り戻していました。かつて圧倒的な力を誇った火星人たちが、地球の微生物に対する免疫を持たなかったために壊滅したという事実から、人類はエイリアンの脅威を打ち破る方法を知っていると確信しているかのように見えました。最初の侵略で放棄されたトライポッドやカプセルから得られた技術を解析し、人類の科学技術は飛躍的な進歩を遂げていました。遠方の火星で新たな打ち上げの兆候が観測されても、多くの人々はそれを深刻な懸念材料とは捉えませんでした。しかし、最初の侵略の語り手であったウォルター・ジェンキンスは違いました。彼は最初の襲撃は単なる偵察に過ぎず、真の攻撃はこれからだと強く確信していました。火星人は過去の敗北から学び、より洗練され、かつてないほど破壊的な方法を考案して再び襲来するだろうと予見していたのです。そして、彼の不吉な予感は現実となります。

物語は、ウォルター・ジェンキンスの弟の妻、すなわち彼の元義妹であるジュリー・エルフィンストンを語り手として進行します。ジャーナリストである彼女は、再び世界規模の混乱へと突き落とされた地球で、生き残るための絶望的な闘いを強いられることになります。火星人は、前回の失敗を徹底的に分析し、細菌への脆弱性を克服するか、あるいはそれを回避する新たな戦術をもって舞い戻ってきました。彼らの兵器はより洗練され、その攻撃は前回以上に冷酷かつ効率的です。人類は、かつての勝利の安堵から一転、再び滅亡の淵に立たされます。本作のタイトルが示す通り、「人類の虐殺」が幕を開けるのです。

物語は複数の章で構成され、例えば第1章「火星人の帰還」では、人類と火星人の戦争を密かに監視していた木星人の存在に触れつつ、ジュリーが元捕虜のエリック・エデン少佐と出会う様子が描かれます。続く章のタイトルである「火星人の下のイングランド」や「戦争の世界」、「地球上の火星」といった見出しからも、物語が地球全体に広がる戦乱と、火星人に支配された地域の実態を描くことが示唆されます。

本作は、単なる続編に留まらず、オリジナルのテーマを現代的な視点で掘り下げています。人類が一度は退けたはずの脅威が、より強力になって戻ってきた時、その傲慢さや油断がどれほど脆いものであるかを突きつけます。技術の進歩をもってしても抗えない圧倒的な暴力に対し、個人や人類全体がどのように向き合い、あるいは滅びゆくのか。ウェルズが問いかけた「人類と異種文明との邂逅」という普遍的なテーマが、バクスターによって1920年代という具体的な歴史的文脈の中に再構築され、読み手に強烈な問いを投げかけます。『ザ・マサカー・オブ・マンカインド』は、オリジナルのファンはもちろん、終末的なSFに関心のある読者にとって、読み応えのある一冊と言えるでしょう。

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