スティーヴン・バクスター

イギリスのSF作家、スティーヴン・バクスターは1957年にリヴァプールで生まれました。彼は物理学の最先端理論や宇宙の広大さをテーマにした、壮大かつ緻密なハードSF作品を数多く手掛けています。

彼の作風の最大の特徴は、そのアイデアのスケールの大きさです。既成概念を遥かに超えるような宇宙的現象や、数百万年・数十億年にわたる時間軸を扱うことが少なくありません。超弦理論や超対称性粒子といった最新の物理学の概念を物語の基盤とし、科学的な整合性を保ちながら驚異的な世界観を構築します。最も想像力豊かなスペースオペラですら及びつかない、圧倒的なスケールで宇宙の深遠を描き出すことに長けています。

代表作の一つである『ジーリー・シリーズ』は、この彼のスタイルを象徴する作品群です。このシリーズでは、強大な技術力を持つ超種族ジーリーが支配する宇宙を舞台に、それに対抗し生き残ろうとする人類文明の長期的な闘争を描いています。宇宙論的なスケールでの文明の興亡が描かれる、まさにバクスターの真骨頂と言えるでしょう。

バクスターの経歴も興味深いものです。ケンブリッジ大学で数学の学位を、さらにサウサンプトン大学で工学の博士号を取得しています。これらの科学的背景が、彼の作品における精密な描写を支えています。現在はイギリス南部で情報科学関連の仕事に従事しながら、精力的にSFの執筆活動を続けています。

また、バクスターはSF史上の巨匠H・G・ウェルズに強い影響を受けています。その影響は単なる作風に留まらず、国際H・G・ウェルズ協会の副会長を務めるほどです。ウェルズ作品への深い敬愛から、『タイム・マシン』の公認続編である『タイム・シップ』や、『宇宙戦争』の公認続編『ザ・マサカー・オブ・マンカインド』といった作品も手掛けており、『タイム・シップ』はジョン・W・キャンベル記念賞やフィリップ・K・ディック賞、英国SF協会賞など、権威ある賞を受賞しています。

彼はまた、様々なジャンルや作風に挑戦しています。『ジーリー・シリーズ』のようなハードSFのほか、表面的には児童文学でありながら大人の読者にも愛される『Mammoth』三部作や、アーサー・C・クラークとの共著による『タイム・オデッセイ・シリーズ』など、幅広い作品を生み出しています。

さらに、架空歴史を扱うサイドワイズ賞の初回受賞者であり、同賞の審査員も務めるなど、SFコミュニティへの貢献も行っています。小説執筆だけでなく、ノンフィクションのエッセイやコラムも多数発表しており、その多才ぶりを発揮しています。スティーヴン・バクスターは、科学的知見と無限の想像力を融合させ、現代SFの可能性を広げ続ける重要な作家です。

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