ザーロモン・マイアー・フォン・ロートシルト

ザロモン・マイヤー・フォン・ロートシルト男爵：オーストリア・ロスチャイルド家の礎を築いた生涯

ザロモン・マイヤー・フォン・ロートシルト男爵（1774年9月9日-1855年7月28日）は、近代金融史にその名を刻むロスチャイルド家の重鎮であり、オーストリアにおけるロスチャイルド財閥の創設者として知られています。フランクフルトのゲットーに、ロスチャイルド家の祖マイアー・アムシェル・ロートシルトの次男として誕生したザロモンは、幼少期から父のもとで金融業を学びました。

1789年頃より家業を支援し始め、ロスチャイルド家がヘッセン＝カッセル方伯家の専属金融機関として選ばれると、カッセルへの頻繁な出張を重ねました。1800年には兄アムシェルと共に父のパートナーとなり、同年に結婚。その後、ナポレオン戦争下のヨーロッパで、抜群の金融手腕を発揮します。

ナポレオンによるヘッセン侵攻と選帝侯の亡命後、ザロモンは選帝侯の債権回収に奔走。大陸封鎖令を巧みに利用し、ロンドンにいた弟ネイサンとの連携プレーで巨額の利益を獲得しました。1810年には父、兄弟と共に「マイアー・アムシェル・ロートシルト父子会社」を設立。父が1812年に亡くなる頃には、兄弟全員が億万長者となっていました。

ナポレオン敗退後のウィーン体制下では、当初は旧勢力に排除されそうになりましたが、アーヘン会議での巧みな金融操作によってその地位を確固たるものとしました。オーストリア帝国宰相メッテルニヒからの巨額融資要請に応じるなど、ウィーン体制の中枢部とも緊密な関係を築きました。

1819年、オーストリア政府の許可を得てウィーンに移住。ユダヤ人差別の厳しいオーストリアにおいて、その卓越した外交手腕で政治家や貴族との信頼関係を構築し、順調に銀行業を展開。「S・M・フォン・ロートシルト銀行」を設立し、オーストリア公債の発行で巨額の利益を上げました。メッテルニヒからの依頼で、マリア・ルイーザ（ナポレオン皇后）の私生児のための財産形成にも貢献しました。1822年には兄弟と共にハプスブルク家から男爵位を授与されています。

銀行業に加え、ザロモンは産業資本家としても活躍しました。1835年、フェルディナント皇帝即位後の鉄道建設プロジェクトに参画。皇帝の自尊心をくすぐる命名で建設を実現させ、「オーストリアの鉄道王」の異名を取りました。オーストリア・ロイド汽船会社の発起人となり、ヴィトコヴィッツ製鉄所の独占所有者となるなど、事業を多角化しました。

慈善事業にも熱心に取り組み、病院建設や給水設備設置などに巨額の寄付を行いました。ユダヤ人の権利向上にも尽力し、1843年にはユダヤ人の不動産購入禁止が解禁。これを機に大荘園を購入し、オーストリア有数の大地主となりました。

しかし、1848年革命によって状況は一変します。メッテルニヒ亡命後、ザロモンも革命派の標的となり国外亡命を余儀なくされました。革命によりロスチャイルド家は破産寸前に陥りましたが、兄弟の結束と保守派の反転攻勢により、滅亡は免れました。ザロモンはパリで客死しましたが、息子のアンゼルムがオーストリアにおけるロスチャイルド財閥を再建しました。

ザロモン・マイヤー・フォン・ロートシルト男爵は、卓越した金融手腕と政治的駆け引き、そして慈善事業への貢献によって、オーストリア・ロスチャイルド家の礎を築いた重要な人物と言えるでしょう。彼の生涯は、激動の19世紀ヨーロッパにおけるユダヤ人金融家の成功と苦悩を象徴するものです。また、強い宗教心と、一方で現実的な宮廷政治への対応力という、複雑な人物像も興味深い点です。彼の功績は、単なる金融家の枠を超え、オーストリア経済発展、そしてユダヤ人社会の地位向上に貢献した歴史的事実として認識されるべきでしょう。

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