マイアー・アムシェル・ロートシルト

マイヤー・アムシェル・ロートシルト：ロートシルト家の祖

マイヤー・アムシェル・ロートシルト (1744年-1812年) は、世界的に知られる金融一族、ロートシルト家の創設者として名高い人物です。ドイツ、フランクフルトのゲットーで生まれた彼は、古銭商からキャリアをスタートさせました。卓越した洞察力と交渉術で着実に顧客を増やし、やがてヘッセン＝カッセル方伯家の御用商人として、大きな成功を収めます。

古銭商から宮廷御用商人へ

彼は幼い頃からラビになることを期待され、フュルトのラビ養成学校で教育を受けました。そこで培われた歴史や語学の知識は、後の古銭収集と販売の事業に役立ちました。しかし、両親を早くに亡くした彼は学校を辞め、ハノーファー王国のユダヤ人銀行家で宮廷御用商人のオッペンハイム家に丁稚奉公として入り、宮廷商人の仕事について学びます。

1764年、フランクフルトに戻った彼は古銭商を開業しますが、当初は苦戦しました。しかし、ハノーファー軍人エメリッヒ・フォン・エストルフ将軍との繋がりを通じて、ヘッセン＝カッセル方伯ヴィルヘルム（後のヴィルヘルム9世）とその宮廷高官たちを顧客に獲得することに成功します。1769年にはハーナウ宮殿の御用商人となり、方伯の財務を支える重要な役割を担うようになりました。

方伯家の財務と事業拡大

方伯ヴィルヘルム9世は傭兵業で莫大な富を築いており、ロンドンからの為替手形の割引など、マイヤーは方伯の財務に深く関与するようになります。1770年にはザロモン・シュナッパーの娘グトレと結婚し、10人の子供をもうけます。事業は順調に拡大し、1780年代半ばにはゲットーで最も裕福な住居に移り住むほどになりました。

方伯がカッセルに移った後も、息子のアムシェルとザロモンが積極的に宮廷との関係を維持し、事業拡大に貢献しました。特にザロモンは方伯に気に入られ、頻繁に宮廷を訪れていました。彼らの尽力により、1789年にはロートシルト銀行はヘッセン＝カッセル方伯家の正式な金融機関として認められ、方伯家の貸出業務にも関与できるようになりました。三男ネイサンは、フランス革命の影響で価格変動の激しい綿の取引のためにイギリス・マンチェスターに渡り、新たな事業を展開しました。

1790年代に入るとロートシルト家の事業は急速に成長し、信用供与と貸付業務が中心となります。マイヤーの人柄と誠実な商売は高い信用を得て、ロートシルト家の成功を支えました。

ナポレオン戦争と巨万の富

1806年、ナポレオン軍の侵攻により、ヘッセン選帝侯ヴィルヘルム1世は国外亡命を余儀なくされました。選帝侯の財産管理を任されたのは、ビュデルスでしたが、彼はフランス当局の目を逃れるために、ロートシルト家に財産管理を託します。

マイヤーと息子たちはフランス当局の目を掻い潜り、各地で選帝侯の債権を回収し、一部を彼に送金しました。残りの資金は投資信託としてロートシルト家に託されました。彼らはフランス当局やライン同盟盟主などとも関係を深め、独自の通商路を確保しました。

ナポレオンの大陸封鎖令により、大陸ではイギリスからの輸入品が不足し、価格が高騰していました。ネイサンはイギリスで安価に買い付けた商品を大陸に密輸し、ロートシルト家の通商ルートを通じて販売しました。これによりロートシルト家は莫大な利益を得るとともに、現地住民からも感謝されました。また、マイヤーはフランクフルト・ユダヤ人の市民権獲得にも尽力しました。

晩年と遺産

晩年は病気療養にあたり、事業を息子たちに委ねました。彼は息子たちに事業運営に関する厳格なルールを定め、誓約書まで提出させています。1810年には「マイアー・アムシェル・ロートシルト父子会社」を設立しました。

1812年、ヨム・キプル祭の断食後、健康状態が悪化し、亡くなりました。遺言書では、一族による事業の継続、男子相続人による事業継承、秘密厳守などを定め、ロートシルト家の繁栄を願いました。彼の遺志は、ロートシルト家による綿密な一族経営として現代まで受け継がれ、世界的な金融一族としてその名を残しています。彼の5人の息子たちは、それぞれフランクフルト、ウィーン、ロンドン、ナポリ、パリに拠点を置き、ロートシルト家の分家として事業を拡大していきました。 彼の生涯は、優れたビジネスセンスと交渉力、そして家族の団結によって築き上げられた、驚異的な成功物語です。

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