シェイキング・ザ・トゥリー

アルバム概要

『シェイキング・ザ・トゥリー / グレイテスト・ヒッツ』は、イングランド出身の音楽家、ピーター・ガブリエルが1990年に発表した、キャリア初の公式なベストアルバムです。彼のソロ活動初期にあたる1977年のファーストアルバムから、1989年の映画サウンドトラック『パッション』までの期間にリリースされた楽曲の中から、代表的なナンバーが厳選して収録されています。2002年には、ガブリエルの他の主要作品群と共にリマスターされ、再びリリースされています。

選曲のコンセプト

本作の収録曲は、単に発表年代順に並べるのではなく、アルバム全体として聴き応えのある流れとなるよう、創造的に配置されています。また、多くの曲がオリジナルアルバム収録バージョンとは異なる形で収められているのが特徴です。ラジオ放送用やシングルリリース用に編集されたバージョン、ミュージックビデオに合わせて短縮されたバージョンなどが選ばれているほか、中にはガブリエル自身のスタジオ「リアル・ワールド・スタジオ」で新たなパートが録音され、手が加えられたテイクも存在します。これは、単なる既発曲の寄せ集めではなく、ベストアルバムとして新たなサウンドを提供しようとする意図が感じられます。

特筆すべき収録曲

「Shaking the Tree」

アルバムタイトルにも冠されているこの曲は、もともとセネガルの歌手ユッスー・ンドゥールが1989年の自身のアルバム『ザ・ライオン』で発表した楽曲です。本作には、ユッスー・ンドゥールとのデュエット形式で、ピーター・ガブリエルのボーカルが新たに追加された1990年版が収録されています。ワールドミュージックへの深い敬意と交流を示す、ガブリエルらしい選曲と言えるでしょう。

「I Have the Touch」

『ピーター・ガブリエル IV』に収録されていたこの曲は、トラックリスト上では「1983年のリミックス」と記されていますが、実際には1985年に大ヒットシングル「Sledgehammer」のB面として発表されたリミックスバージョンが収録されています。この1985年版は、1983年のシングル「Walk Through the Fire」のB面に収められたリミックスにサウンドが近いものの、本作では3分45秒に短く編集されています。細かいバージョン違いにまで言及する、ファンにとっては興味深いポイントです。

「Here Comes the Flood」

デビューアルバム『ピーター・ガブリエル』からの楽曲ですが、本作には1990年に新たに録音されたバージョンが収録されています。オリジナルのアルバムバージョンが多重録音を用いた緻密なサウンドプロダクションだったのに対し、この新録音はピアノとガブリエルのボーカルのみという、極めてシンプルなアレンジとなっています。この簡素なスタイルは、彼が1979年にロバート・フリップのアルバム『エクスポージャー』で共演した際に録音されたバージョンに近いものです。ガブリエル自身もインタビューでこのフリップ版を好むと語っており、1980年のドイツ語版アルバム『Ein deutsches Album』発表前に、シングル「Biko」のB面曲としてドイツ語で歌う際にも、このフリップ版を基にしました。本作における再録音は、彼がこの曲に対して抱く特別な思いや、理想とする表現形態を示唆していると言えるでしょう。

収録されなかった楽曲について

本作はガブリエルの初期から中期にかけてのキャリアを総括するベストアルバムですが、すべての作品から満遍なく選ばれているわけではありません。『ピーター・ガブリエル II』や、アラン・パーカー監督の映画『バーディー』のサウンドトラックからの楽曲は一切収録されていません。

特に、ファンや評論家の間で収録が見送られたことが話題になったのは、「In Your Eyes」でしょう。この曲は、キャメロン・クロウ監督の映画『セイ・エニシング』のクライマックスシーンで効果的に使用されたことにより、広くその存在を知られ、「Sledgehammer」と並ぶピーター・ガブリエルの代表曲として認識されることも少なくありません。しかし、インプット情報によれば、この曲はヒットチャートにおいてトップ20圏内に入れなかったことが、本作への未収録の理由の一つとして考えられています。その代わりに、同じアルバム『So』からチャートトップを飾った「Sledgehammer」を含む4曲のヒットシングルと、アルバム収録曲である「Mercy Street」の計5曲が優先的に収録された可能性があると指摘されています。これは、商業的な成功度合いも選曲基準に影響していたことを示唆しています。

収録曲リスト

以下の16曲が収録されています。なお、印の付いている曲は、ヴァイナル盤には収録されませんでした。

（注：ユッスー・ンドゥールとの共作「Shaking the Tree」を除き、全作詞・作曲 ピーター・ガブリエル）

ソルスベリー・ヒル - "Solsbury Hill" （『ピーター・ガブリエル』収録）4:20
アイ・ドント・リメンバー - "I Don't Remember" (Edited version) （『ピーター・ガブリエル III』収録）3:48
スレッジハンマー - "Sledgehammer" (Single edit) （『So』収録）4:52
ファミリー・スナップショット - "Family Snapshot" （『ピーター・ガブリエル III』収録）4:25
マーシー・ストリート - "Mercy Street" (Edited version) （『So』収録）4:43
シェイキング・ザ・トゥリー - "Shaking the Tree" (デュエット with ユッスー・ンドゥール、1990 remix) （ユッスー・ンドゥール『ザ・ライオン』収録）6:24
ドント・ギヴ・アップ - "Don't Give Up" (デュエット with ケイト・ブッシュ、Edited version) （『So』収録）5:55
サン・ジャシント - "San Jacinto" （『ピーター・ガブリエル IV』収録）6:40
ヒア・カムズ・ザ・フラッド - "Here Comes the Flood" (1990 re-recording) （新録音。オリジナルは『ピーター・ガブリエル』収録）4:31
レッド・レイン - "Red Rain" （『So』収録）5:35
ゲームズ・ウィズアウト・フロンティアーズ - "Games Without Frontiers" (Edited version) （『ピーター・ガブリエル III』収録）3:57
ショック・ザ・モンキー - "Shock the Monkey" (Radio edit) （『ピーター・ガブリエル IV』収録）3:57
アイ・ハヴ・ザ・タッチ - "I Have the Touch" ('85 remix, mislabelled as 1983 remix) （『ピーター・ガブリエル IV』収録）3:44
ビッグ・タイム - "Big Time" （『So』収録）4:26
ツァール - "Zaar" (Edited version) （『パッション』収録）2:58
* ビコ - "Biko" (Edited version) （『ピーター・ガブリエル III』収録）6:54


このベストアルバムは、ピーター・ガブリエルの多彩な音楽キャリアの初期から中期にかけての重要な瞬間を捉えており、初めて彼の音楽に触れるリスナーにとって優れた入門盤となっています。

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