シェ松尾

「シェ松尾」（シェまつお）は、東京都渋谷区にその本拠を構える、名高い高級フレンチレストランです。

創業と発展の軌跡

シェ松尾の歴史は、著名なシェフである松尾幸造氏が1980年（昭和55年）に渋谷・松濤の地に開業した、同名の高級フレンチレストランとして始まりました。その質の高い料理とサービスは瞬く間に評判を呼び、多くの食通や著名人に愛される存在となります。

開業から数年を経た1984年（昭和59年）10月には法人化を果たし、事業規模を拡大。東京都内の青山や天王洲といった人気エリアにも支店を展開し、その名をさらに広げました。

成功と輝かしい時代

シェ松尾は、各界で活躍する著名人が足繁く通う店としても知られていました。特に、松濤本店には皇族の方々も度々訪れた記録が残されています。松尾氏の著作によれば、三笠宮崇仁親王や、当時の浩宮徳仁親王（現在の天皇陛下）、そして皇太子となられた後の徳仁親王と婚約中の小和田雅子氏（現在の皇后陛下）も家族とともに来店されたといいます。

徳仁親王の来訪を記念して、松濤本店の一室は「インペリアル・ルーム」と名付けられ、その格式の高さを示すエピソードとなっています。こうした華やかな背景もあり、シェ松尾は経営的にも順調で、2007年（平成19年）3月期には年間約19億5000万円という売上高を計上するなど、日本のフレンチレストラン界における代表的な存在の一つとして君臨しました。

事業の多角化も進められ、2005年（平成17年）には関連会社として株式会社シェ松尾エンタープライズを設立。2007年（平成19年）には、このエンタープライズ社がシェ松尾の洋菓子や製菓部門の事業を引き継ぎ、レストラン以外の分野でもそのブランド力を生かそうとしました。

経営の変遷と事業譲渡

しかし、経済情勢の変化はシェ松尾の経営にも影を落とします。景気の低迷が続く中で、売上減少に歯止めがかからず、ピーク時には約20億円近かった年商は、2009年（平成21年）3月期には約13億3000万円まで落ち込みました。

経営状況は厳しさを増し、資金繰りに行き詰まる中で、事業の継続が困難な状況となります。その結果、2010年（平成22年）9月15日、シェ松尾本体および関連会社のシェ松尾エンタープライズは、事業支援を行う会社への事業譲渡を選択することとなりました。

現在の運営体制と本店の今後

事業譲渡後のシェ松尾は、その後のメディア報道によれば、松濤本店を除くほとんどの事業が、中華料理店などを手広く展開するホーコーフーズ株式会社（本社：東京都中央区）の傘下に入ったとされています。

新たな支援体制のもと、松濤本店を含むすべての店舗は事業譲渡後も営業を継続し、多くの顧客に料理を提供し続けてきました。

しかし、長年にわたりシェ松尾の顔として親しまれてきた松濤本店は、新たな局面を迎えます。2024年12月1日、建物の老朽化が進んでいることを主な理由として、2025年1月31日をもって現在の場所での営業を終了（閉店）することが発表されました。

ただし、本店としての歴史をここで終えるわけではなく、シェ松尾側は将来的に別の場所へ移転し、営業を再開する意向であることを示しています。

関連情報

創業者の松尾幸造氏は、自身の経験やシェ松尾の歩みについて、複数の書籍を出版しています。『殿下と妃殿下のレストラン-「シェ松尾」自伝』や『シェ松尾物語』といった著作からは、レストラン経営の舞台裏や皇族との交流など、興味深いエピソードを知ることができます。

シェ松尾は、時代の波に乗りながらも、高品質な料理とサービスを提供し続け、日本のフレンチレストランの歴史に確かな足跡を残しています。松濤本店の閉店は一つの区切りとなりますが、移転再開への期待も寄せられており、その今後の動向が注目されています。

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