シカゴ美術館附属美術大学

シカゴ美術館附属美術大学：実験的な芸術の殿堂

シカゴ美術館附属美術大学（The School of the Art Institute of Chicago, SAIC）は、イリノイ州シカゴ市に位置する、北米を代表する私立美術大学です。純粋美術、特に実験的な芸術分野において、世界的に活躍するアーティストやキュレーターを数多く輩出しており、その名は国際的に広く知られています。SAICは、シカゴ・アート・インスティテュート、シカゴ美術館付属美術大学、シカゴ美術館学校、シカゴ美術学院、シカゴ芸術大学などとも呼ばれることがあります。

SAICの卒業生が手がけた作品は、欧米の主要美術館に数多く収蔵されており、その影響力の大きさを示しています。コロンビア大学の全米芸術ジャーナリズム・プログラムは、SAICをアメリカで最も影響力のある美術大学の一つと評価しています。特に大学院の美術修士課程（Master of Fine Arts Program）は、権威あるUSニューズ&ワールド・レポート誌の全米大学院ランキングにおいて、美術分野で長年トップクラスの評価を獲得し続け、イェール大学、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン、カリフォルニア大学[[ロサンゼルス校]]など名門校と常にトップの座を争っています。

2020年の統計によると、SAICには約3132人の学生（大学学部約2487人、大学院約645人）と約835人の教員が在籍しています。学生の31％は留学生で、79カ国から学生が集まっています。この多様な国際的な環境が、SAICの大きな特徴の一つとなっています。

歴史と伝統

SAICの歴史は古く、1866年に設立されたシカゴ・アカデミー・オブ・デザインを起源とします。1882年には、美術史を含む総合的な美術教育を行うアート・インスティテュート・オブ・シカゴへと発展し、地元の富豪からの寄付によって付属美術館のコレクションが充実していきました。1893年のシカゴ万国博覧会の終了を機に美術館が独立し、現在のシカゴ美術館となりました。これに伴い、大学はシカゴ美術館の付属組織となり、名称をザ・スクール・オブ・ジ・アート・インスティテュート・オブ・シカゴと改称しました。長い正式名称から、略称のSAICが広く使われています。日本語の正式名称「シカゴ美術館附属美術大学」は、1997年に日本人教職員と卒業生によって決定されました。

母体であるシカゴ美術館は、後期印象派、アメリカ美術、浮世絵のコレクションで世界的に有名であり、メトロポリタン美術館、ボストン美術館と並ぶアメリカ三大美術館の一つに数えられています。SAICとシカゴ美術館は運営は別ですが、SAICの学長が美術館の専務理事を兼任する場合もあります。

1988年から2011年にかけて、トニー・ジョーンズ学長（1988-1992, 1996-2008）の下で、SAICは美術療法、デザイン、服飾、ニューメディア、建築、サウンドアートなどの学科を拡張し、本格的なアトリエを持つ学生寮を新設するなど、大きな発展を遂げました。この間、世界で初めてパフォーマンス・アート専攻の大学院修士課程を開設するなど、常に革新的な取り組みを行ってきました。2004年には東京藝術大学、2005年には武蔵野美術大学と交流協定を締結するなど、国際的な連携も強化されました。

教育環境

SAICの本部校舎は、シカゴ美術館に隣接しており、美術館、大学ともにシカゴ市の中心部に位置し、交通の便が抜群です。地下鉄、電車、バスの主要路線の駅や停留所が徒歩3分圏内にあります。高層ビルが立ち並ぶ活気のあるエリアですが、すぐ近くにグラント・パークとミレニアム・パークという大きな公園があり、ミシガン湖を望むことができます。

図書館、映像センター、食堂、ギャラリー、学生寮なども校舎から500メートル圏内に集中しており、学生生活を快適に過ごすための環境が整っています。周辺には、市立図書館、劇場、映画館などの文化施設に加え、スーパーマーケット、画材店、デパート、書店、レストラン、バーなどが豊富にあり、学生生活を豊かに彩る様々な選択肢があります。

大学院生は、在学中に個室のアトリエが提供されます。多くの校舎は、アトリエを含め学期中は24時間開放されており、許可を得れば深夜まで作業することが可能です。大学の警備は24時間体制で、夜間には校舎と寮の間を無料の大学バスが運行しています。

シカゴ美術館との連携

SAICとシカゴ美術館は運営が別組織ですが、SAICの教職員と学生はシカゴ美術館への無料入場が許可され、特別講義やイベントへの参加、図書室や資料室の利用も可能です。美術館内での写真撮影やスケッチも許可されており、ボランティアやインターンの機会も多いです。美術館の学芸員が大学の授業を担当する場合もあり、学生たちは世界的な名作に囲まれた環境で学ぶことができます。

カリキュラム

学部課程（4年制）
入学倍率は3～5倍と高く、学際的な教育方法を採用しています。入学時に専攻を決定する必要はなく、1年次に美術史、平面、立体、映像を必修科目として学び、その後、教員の指導を受けて専攻を決定します。専攻分野は建築、芸術工学、美術教育、美術史、陶芸、デザイン、服飾、染織、映像、絵画、パフォーマンス、写真、版画、彫刻、音響、文芸など16種類に及びます。自然科学など一般教養科目の履修も充実しており、学生の思考力を育成するカリキュラムとなっています。

大学院課程（2年制）
絵画、写真、版画などの学科は毎年18倍前後の高い倍率となっており、北米でも最も入学が難しい美術修士課程の一つです。学部課程の専攻分野に加え、美術療法、芸術運営、修復、美術ジャーナリズムなどの専攻があり、美術館など現場での実践的な学習機会が充実しています。

大学院予科（1年制）
ポスト・バカロレア・プログラム（Post Baccalaureate Program）と呼ばれ、大学院と同様の環境でアトリエが提供され、制作に専念することができます。翌年の修士課程への進学は保証されませんが、修了証が発行されます。このプログラムは、ポートフォリオ作成に必要なスタジオ経験を積みたい者、学士の専攻とは異なる分野で制作をしたい者、米国の教育システムに適応するためのスタジオワークを必要とする留学生などを対象としています。

著名な卒業生

SAICは、世界的に著名なアーティストやクリエイターを数多く輩出しています。その中には、ローリー・アンダーソン（ミュージシャン）、ウォルト・ディズニー（漫画家、実業家）、ジョージア・オキーフ（画家）、ジェフ・クーンズ（アーティスト）、オーソン・ウェルズ（映画監督、俳優）など、様々な分野で活躍する著名人が含まれています。

SAICは、歴史と伝統、そして革新的な教育によって、世界をリードする美術大学としての地位を確立し続けています。

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