シグマ・MC74

シグマMC74：日本の挑戦、ル・マンへの足跡

1974年、日本の自動車メーカー、マツダのロータリーエンジン12Aを搭載したレーシングカー、シグマMC74が誕生しました。開発を手掛けたのはシグマ・オートモーティブ（現在のサードの前身）です。このマシンは、国際[[自動車連盟]]（FIA）のレギュレーションに準拠したスポーツカーとして、ル・マン24時間レースへの参戦を最大の目標に開発されました。

MC74は、前モデルであるMC73の改良版です。MC73で発生したクラッチやサスペンションのトラブルを解消しつつ、ル・マンの高速ストレート区間での速度向上を目指した設計がなされました。特に、ル・マンの象徴的な長大なストレート、ユノディエールでの最高速度向上を重視した空力設計は、MC74開発における大きな焦点でした。

マシン概要：徹底した軽量化と空力性能

MC74のシャーシは、MC73と同様のツインチューブアルミモノコック構造を採用。しかし、素材には航空機にも使われる高強度な三元アルミ合金（17S）を用い、板厚を工夫することで、シャーシ剛性の向上を実現しています。サスペンションは、フロントにダブルウィッシュボーン、リアに4リンク式を採用し、高い操縦安定性と路面追従性を両立させています。

ボディカウルは、空力性能を最大限に引き出すために綿密に設計されました。セミロングテール形状を採用し、ドラッグを低減しながら、ダウンフォースを確保。ノーズ形状は、空気抵抗を低減するための丸みのあるデザインと、ダウンフォースを生成するための楔形デザインが巧みに融合されています。ボディ上面はほぼフラットで、僅かな傾斜をつけることで、ダウンフォースを発生させる工夫が凝らされています。また、リアカウルには、冷却効率を高めるためのNACAダクトや、空気排出孔を配置するなど、空力と冷却の両面を考慮した設計となっています。

エンジン：信頼性の高いロータリーエンジン

搭載されるエンジンは、マツダのロータリーエンジン12Aです。公称出力は260PS。マツダオート東京がチューニングとメンテナンスを担当しました。ロータリーエンジンの排気量換算係数が当時2であったため、MC74の換算排気量は2292ccとなり、最低重量が3000ccクラスと同じになるため、バラスト代わりにシャーシの補強に材料を使用するなど工夫が凝らされました。

ル・マン24時間レース：完走ならずも大きな経験

1974年のル・マン24時間レース。シグマ・オートモーティブとマツダオート東京の混成チームとして、高橋晴邦、寺田陽次郎、岡本安広の3名がドライバーとして参戦しました。3名ともル・マン初挑戦でした。

予選では、エンジントラブルに見舞われ、目標タイムを大きく下回る結果に終わりました。決勝では、レース開始直後からクラッチや電気系統のトラブル、そしてタイヤパンクなどが発生し、長時間のピットストップを余儀なくされました。エンジンに小石が吸い込まれるトラブルも発生し、長時間に及ぶオーバーホール作業も行われました。

これらのトラブルにより、MC74は155周しか走行できず、総合21位に終わりました。完走には規定周回数の60%を達成する必要がありましたが、MC74はそれを下回ったため、完走扱いとはなりませんでした。しかしながら、24時間を走りきった日本車として、その挑戦は大きな意味を持ちます。

富士グランチャンピオンシリーズ：さらなる挑戦

ル・マン後、MC74は1975年の富士グランチャンピオンシリーズにも参戦しました。しかし、マシンの重量過多やトラブルにより、目立った成績を残すことはできませんでした。

シグマMC74は、日本の自動車技術力の高さを世界に示す挑戦となりました。完走はできませんでしたが、その開発技術や、ル・マンという過酷なレースに挑戦した経験は、日本のモータースポーツの発展に大きく貢献したと言えるでしょう。そして、MC74は、日本の自動車メーカーが世界に挑戦していく歴史の重要な一ページを刻んだのです。

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