シグムンド

シグムンド：北欧神話の英雄、ヴォルスング一族の物語



シグムンドは、北欧神話およびゲルマンの叙事詩に登場する伝説的な英雄です。彼はヴォルスング王とフリョーズの間に生まれた10人の息子の長男であり、双子の妹シグニューと共に、その美しさと優れた資質で際立っていました。また、シグムンドは毒が全く効かないほどの強靭な肉体を持っていました。

彼は数々の女性との間に子をもうけ、妹シグニューとの間にシンフィヨトリを、最初の王妃ボルグヒルドとの間にヘルギとハームンドを、そして2人目の王妃ヒョルディースとの間に、後に英雄となるシグルズをもうけました。

ヴォルスング一族の殺害



シグムンドの物語は、ガウトランドの王シゲイルがシグニューに求婚することから始まります。ヴォルスング王はこれを歓迎しましたが、シグニューと彼女の兄弟たちは乗り気ではありませんでした。しかし、決定権は父王にあり、シゲイルとシグニューの婚約が成立します。

結婚式はヴォルスングの館で盛大に執り行われました。その祝宴の最中、オーディン神が姿を現し、広間の中心にあるリンゴの大樹バルンストックに一本の剣を柄元まで突き刺しました。そして、この剣を抜いた者に褒美として与えると言い残して立ち去ります。居合わせた勇士たちは次々に剣を抜こうと試みましたが、誰一人として抜くことができませんでした。しかし、シグムンドは容易く剣を引き抜き、自身のものとしました。

剣の素晴らしさを目の当たりにしたシゲイルは、剣の重さの3倍の黄金で譲ってほしいと頼みましたが、シグムンドは彼にはこの剣は相応しくないと一蹴しました。この事で腹を立てたシゲイルは、翌日宴の席を辞して帰国します。シゲイルは、その非礼を詫びるかのように3か月後に自国への招待を申し出て、ヴォルスング王は承諾しますが、これはシグムンドへの復讐を企てたものでした。ガウトランドに到着した船上で、シグニューは父に罠であると警告しますが、ヴォルスング王は退かずシゲイルの軍勢と戦い、ヴォルスング王と供の者は戦死、10人の王子は捕らえられ処刑されることになります。

シグニューはシゲイルに、王子たちをすぐに殺さず、手かせ足かせを嵌めるように懇願します。願いは聞き入れられましたが、シゲイルは彼らを森の中に放置しました。夜になると、メスのオオカミが現れ、一晩に一人ずつ王子を食い殺し、最後にシグムンドだけが残されました。シグニューは、シグムンドの顔に蜂蜜を塗らせ、オオカミが蜂蜜を舐めようと舌を口に入れた時に、シグムンドはそれを噛み切ってオオカミを殺しました。シグニューはシグムンドが生きているのを確認すると、地下室を作って彼を匿いました。

その後、シグニューはシゲイルとの間に生まれた2人の息子に復讐をさせようと試みますが、彼らに見込みがないと悟ると、シグムンドに殺させます。その後、シグニューは魔法使いの女と姿を入れ替わり、兄であるシグムンドを訪ねて契りを結び、シンフィヨトリを産みます。

シグムンドたちの復讐



シグムンドは、子であり甥でもあるシンフィヨトリを鍛えるため、彼と共に森に住み、人を襲い略奪を繰り返しながら生活しました。シンフィヨトリが勇敢な若者に成長すると、シグムンドはシゲイルに復讐するため、シンフィヨトリと共に王の館に忍び込みますが、シゲイルの幼い息子たちに見つかり、彼らを殺害します。勇敢に戦いましたが、多勢に無勢で捕まり、一つの塚の中に石で隔てられ生き埋めにされます。しかし、彼らはシグニューが差し入れた食料に仕込まれた剣で石を引き切り、塚を破って脱出します。王の館に取って返した2人は、寝静まった広間に火を放ちます。シグニューはシゲイルに対し、自分もかねてから父と兄弟の復讐を望んでおり、それを果たす能力のある息子を得るために兄と通じたことを明かします。そして、生き長らえることを望まず、シグムンドとシンフィヨトリに別れを告げ、シゲイルと共に焼死する道を選びました。

王位継承とその後



復讐を遂げたシグムンドは自国へ帰り、簒奪者から王位を取り戻します。彼はボルグヒルドを妃に迎え、彼女との間にヘルギとハームンドをもうけます。しかし、シンフィヨトリは継母の弟と一人の女性を巡って争い、彼を殺害したため、ボルグヒルドに毒殺されます。シグムンドはボルグヒルドを追放します。

その後、シグムンドはエイリミ王の娘ヒョルディースが美しく聡明で自分の妃にふさわしい女性であるという評判を聞き、エイリミの元を訪れようとします。エイリミはシグムンドが戦を仕掛けるのではないかと警戒していましたが、音信を交わすうちに友好を結ぶようになります。シグムンドが国へ着くと、そこにはエイリミと縁続きになるためにヒョルディースを妃に望むフンディングの息子リュングヴィ王も到着していました。どちらかを選ぶよう父に言われたヒョルディースは、より優れた王としてシグムンドを選びます。リュングヴィはこれを恨み、義父エイリミと共にフーナランドへ出立したシグムンドに宣戦布告しました。

シグムンドの最期



戦いは激戦を極めました。高齢ながらもシグムンドは先頭に立って戦い、多くの戦士が倒れましたが、ノルニルの加護を受けたシグムンドは負傷することなく、彼の軍が優勢でした。しかし、片目の老人（オーディン）が彼の剣を槍で折ると形勢は逆転し、シグムンドとエイリミはついに倒れました。

戦に先立ちエイリミの城から森へ逃がされていたヒョルディースは、敵軍が去った戦場で倒れていた夫を介抱しました。彼女はシグムンドが傷を癒し、父王の仇を討つことを望みますが、シグムンドはオーディンの加護を失った今、彼は自分が戦うことを望んでいないのだと治療を拒否し、彼女が息子を身ごもっていることを告げると、折れた剣（後のグラム）を託して息を引き取りました。

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