シコルスキー VS-44

シコルスキー VS-44 (Sikorsky VS-44)

シコルスキー VS-44は、1930年代の初めに開発された4基のエンジンを搭載した飛行艇です。この機体は、40人以上の乗客を乗せて大西洋を横断する航路で運行されることを想定して設計されました。元々はアメリカ海軍向けに製造されたXPBS-1を基にしており、さらに3機の民間用機が追加で建造され、その名前はExcalibur、Excambian、Exeterとなっています。

開発の背景

1930年代初頭、大洋を越える航空運行には飛行艇がたびたび利用されていました。これは、長い滑走路を必要とせず、仮に故障が発生しても水面での着水が可能だからです。飛行艇設計の先駆者であるイゴール・シコルスキーが設立したシコルスキー・エンジニアリングがこの機体を設計しました。1935年3月には、アメリカ海軍の新しい哨戒爆撃機の計画に対し、XPBS-1として競争試作がスタートしました。

同年の9月9日に初飛行を果たし、その後、1938年にはNACAによる評価が行われましたが、結果的には他の設計に敗れました。試作機は地域の哨戒任務に使用され、最終的には1942年に着水事故で失われる運命となりました。

商業モデル VS-44 の開発

1940年、シコルスキー・エンジニアリングはチャンスボートに吸収され、XPBS-1を元に民間機であるシコルスキー VS-44が開発されます。この機体はプラット＆ホイットニーの1,200馬力のツイン・ワスプエンジンを搭載し、搭載エンジンの総出力は1,600馬力にもなりました。このモデルは競合機であるボーイング 314に対し、大幅な速度向上と航続距離の改善を実現しました。パンアメリカン航空との契約を目指しましたが、残念ながら採用されることはありませんでした。

アメリカン・エキスポート・エアライン（AEA）が3機を受注し、大西洋横断航路で運行されることとなりました。これらの機体は「Flying Aces」と名付けられ、Excalibur、Excambian、Exeterという名前でそれぞれ運行されました。内部には豪華なベッドやドレスルーム、食堂、バー、空調設備が整えられ、乗客に快適な移動を提供しました。

第二次世界大戦への影響

しかし、第二次世界大戦の開戦に伴い、民間航空路は一時中断を余儀なくされました。これにより、アメリカ海軍はAEAが所有するVS-44を徴用し、JR2S-1としてニューヨークとアイルランド間の人員や貨物の輸送に利用しました。残念ながら、Excaliburは1942年に離陸時に墜落事故を引き起こし、37名のうち11名が亡くなる悲劇が発生しました。

戦後、AEAはAmerican Overseas Airlines (AOA) と改名され、またExeterは1946年にウルグアイの会社に売却されますが、1947年には事故で失われました。一方で、Excambianは1949年にメキシコのタンピコ航空に売却され、アマゾンでの貨物運行が計画されましたが、実現には至らず放置されることとなりました。

最後の活躍

1950年代後半に、南カリフォルニアの2人のビジネスマンがExcambianを引き取り、修復を行いました。Avalon Air Transport (AAT) により運用され、他の機体とともに「マザーグース」として知られるようになりました。1967年までに数千人の乗客を輸送し、その後はAntilles Air Boatsに売却され、バージン諸島への航路で活躍しました。しかし、1969年には岩礁により損傷を負い運行を中止し、その後は浜辺にてホットドッグスタンドとなって再利用されました。

1976年、Excambianは海軍航空博物館に寄付され、ニューイングランド航空博物館で永久展示される運びとなりました。ボランティアの手によってレストアが行われ、運用当時の姿を取り戻しています。

性能諸元

• - 全幅: 37.79 m
• - 全長: 24.15 m
• - 全高: 8.41 m
• - 総重量: 26,082 kg
• - 発動機: 4 × Pratt & Whitney R-1830-S1C3-G (1,200 hp)
• - 最大速度: 257 km/h
• - 航続距離: 6,116 km

関連項目として水上機の一覧も参照されることがあります。

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