シシリーの黒い霧

『シシリーの黒い霧』(原題:Salvatore Giuliano)は、1962年、フランチェスコ・ロージ監督によって生み出されたイタリア映画です。舞台は20世紀中頃のシチリア島。この作品は、義賊として民衆から支持を集めながらも、謎めいた最期を遂げたサルヴァトーレ・ジュリアーノの生涯に焦点を当てています。

物語は、1950年、シチリアの民家の中庭でジュリアーノが射殺された事件から始まります。映画は、ジュリアーノの片腕であったピショッタの裁判を通して、彼の死の真相に迫ります。裁判を通して明らかになるのは、第二次世界大戦末期から終戦直後にかけてのシチリアの混沌とした情勢です。ジュリアーノ、シチリア独立義勇軍、そしてマフィアといった勢力が複雑に絡み合い、抗争と陰謀が渦巻く世界が描かれています。

ロージ監督は、単なる伝記映画ではなく、シチリアの社会構造や政治状況、そして人々の生き様を深く掘り下げています。ジュリアーノという一人の男の物語を通して、当時のシチリアの複雑な現実を浮き彫りにし、観る者に強い衝撃を与えます。

キャストは、ピショッタ役にフランク・ウォルフ、サルヴォ・ランドーネなど、イタリア映画界の実力派俳優が名を連ねています。彼らの熱演によって、登場人物たちの葛藤や苦悩がリアルに表現されています。

『シシリーの黒い霧』は、その芸術性と社会性から高い評価を受け、数々の賞を受賞しました。1962年の第12回ベルリン国際映画祭では銀熊賞（監督賞）を受賞。さらに、1963年度のナストロ・ダルジェント賞では最優秀作品監督賞、作曲賞（ピエロ・ピッチオーニ）、撮影賞（白黒、ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ）を受賞しています。これらの受賞は、本作が技術面、芸術面においても優れた作品であることを証明しています。

近年でも高い評価を受け続けており、著名な映画監督であるマーティン・スコセッシは、2013年に発表した自身のベスト映画12作品の中に『シシリーの黒い霧』を選んでいます。このことは、本作が時代を超えて評価される、不朽の名作であることを示しています。

『シシリーの黒い霧』は、単なる犯罪映画や歴史映画の枠を超えた、人間の業と社会の闇を描いた深遠な作品です。シチリアの豊かな自然と混沌とした社会、そしてそこに生きる人々のドラマは、観る者の心に深く刻まれるでしょう。興味のある方は、ぜひ一度鑑賞してみてください。 シチリアの歴史やマフィア、独立運動に関心のある方にも、強くおすすめできる作品です。また、1987年の映画『シシリアン』と比較しながら鑑賞することで、さらに深い理解が得られるかもしれません。

もう一度検索