シドニー・チャップリン (1885年生)

シドニー・チャップリン：喜劇王を支えた兄の生涯

シドニー・チャップリン（1885年3月16日 - 1965年4月16日）は、チャールズ・チャップリン、通称チャーリー・チャップリンの異父兄として知られるイギリスの俳優、コメディアン、マネージャー、そして実業家です。 彼はチャーリーの成功を陰で支えつつ、自身も多岐にわたる分野で才能を発揮しました。本稿では、シドニーの波乱万丈な生涯を辿ります。

貧困からの脱却と船乗りから俳優への転身

シドニーはロンドンの貧しい家庭に生まれました。父親は不明であり、幼少期は困窮の中で育ちました。母親の再婚後、チャーリーが誕生し、兄弟は苦楽を共にします。しかし、母親が精神を病み、兄弟は孤児院のような施設で生活することになります。シドニーはその後、練習船「エクスマス」に入り、船乗りとしての訓練を受けました。数々の航海を経験し、腕利きの船員へと成長しますが、母親の病状悪化を機に、俳優への道を志すことになります。

なかなか役を得られず苦労するシドニーでしたが、チャーリーの助力もあり、巡業舞台で役を獲得。その後、チャールズ・マノン一座、フレッド・カーノー劇団と渡り歩き、コメディアンとしての才能を開花させます。カーノー劇団では、アメリカ巡業のメンバーにも選ばれ、その才能を高く評価されました。シドニーはチャーリーにもカーノーを紹介し、兄弟揃って舞台で活躍することになります。

映画界へ、そしてチャーリーのマネージャーへ

弟チャーリーがキーストン社と契約し映画界で成功を収めると、シドニーもその後を追うように渡米。キーストン社で独自のキャラクター「ガッスル」を生み出し、映画デビューを果たします。しかし、俳優業に見切りをつけ、チャーリーのマネージャーに転身することを決意します。

シドニーは、チャーリーの人気にあやかった商品から利益を得ようと様々な事業に乗り出しますが、うまくいかないこともありました。しかし、金銭や社交に無頓着なチャーリーを支え、秘書として献身的に尽くします。チャーリーのファースト・ナショナル・ピクチャーズとの契約をまとめ、『犬の生活』などの作品に出演し、俳優業にも復帰。マネージャー業と並行して、『ベター・オール』などの作品で独自の存在感を示しました。

アメリカ初の個人経営航空会社設立

映画界での活躍の一方で、シドニーは実業家としての才能も発揮します。1919年には、パイロットのエメリー・ロジャースと共に、カリフォルニア州サンタモニカを拠点とするシド・チャップリン・エアライン・カンパニーを設立しました。これは、アメリカで最初の個人経営による航空会社であり、航空機の販売や航空便の認知に貢献しました。チャーリー自身も、シドニーの会社の航空機で初めて空を体験しています。

ニースへの移住と晩年

1930年代以降、シドニーはフランスのニースに移住し、チャーリーの片腕として活動しました。1932年には、チャーリーの日本訪問に同行し、現地の様子を目の当たりにしています。第二次世界大戦中はアメリカに一時的に移住し、チャーリーが製作していた『独裁者』の現場にも顔を出しました。

晩年はヨーロッパに戻り、赤狩りの影響でアメリカへの再入国が難しくなったチャーリーとスイスで面会。いたずら好きな一面を見せ、チャーリーやその子供たちを楽しませていました。1965年4月16日、シドニーはニースのホテルで80歳で亡くなりました。この日は、奇しくもチャーリーの76歳の誕生日でした。

兄弟愛と隠れた功績

シドニーとチャーリーは、辛く貧しい幼少期を分かち合ったことで、強い兄弟愛で結ばれていました。チャーリーが世界のスターとなっても、シドニーの助言には耳を傾け、その関係は生涯続きました。また、シドニーは、チャーリーが撮影で使用しなかったフィルムを保管し続けました。これらのフィルムは、後にチャーリー作品の研究に大きく貢献することになります。

役者としての評価

シドニーは、役者としても独自の才能を発揮しました。チャップリン研究家の大野裕之は、シドニーの演技を「いかにも見世物的なハイテンションな演技」と評しています。また、『犬の生活』では、兄弟愛を感じさせる絶妙な演技を見せました。ダリル・F・ザナックは、シドニーを「ハリウッドの歴史上、最も偉大な女装者」と称賛しています。

シドニー・チャップリンは、喜劇王チャーリー・チャップリンの兄としてだけでなく、俳優、マネージャー、実業家として多才な才能を発揮し、独自の道を切り開いた人物でした。彼の波瀾万丈な生涯は、多くの人々に感動と勇気を与え続けています。

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