犬の生活

映画『犬の生活』解説

『犬の生活』（A Dog's Life）は、1918年に公開されたチャールズ・チャップリンによるサイレント映画です。チャップリンが主演、脚本、製作、そして監督を務めたこの作品は、彼の映画出演作としては64作目に当たります。

作品の概要

この映画は、チャップリンのキャリアにおいて重要な転換点と位置づけられています。彼の代表的なキャラクターである「放浪者（チャーリー）」のイメージが確立された作品として知られています。また、異父兄であるシドニー・チャップリンとの共演も実現しました。しかし、不幸な事件がきっかけとなり、チャップリンが亡くなるまで秘密主義を貫くことになった作品でもあります。

タイトルの「A Dog's Life」は、英語の慣用句で「惨めな生活」を意味します。

チャップリン映画の著作権は、本作から1967年の『伯爵夫人』まで、チャップリン家が保有しています。

あらすじ

職を求めて職業安定所へ行く放浪者（チャーリー）。しかし、仕事を得ることはできず、帰る途中で野良犬にいじめられている一匹の犬を助けます。「スクラップス」と名付けられた犬とチャーリーは、一緒に生活を始めます。

路地の屋台で盗み食いをしながら日々を過ごす中、お金を持たずに入った酒場で歌手（エドナ・パーヴァイアンス）と出会いますが、店を追い出されてしまいます。その後、強盗（アルバート・オースチン）が盗んで埋めた財布をスクラップスが見つけ、二人は大金を手に入れます。

再び酒場へ行ったチャーリーは、一度は財布を強盗に奪われますが、機転を利かせて取り戻し、歌手と犬と共に田舎で幸せに暮らすのでした。

キャスト

放浪者 - チャーリー・チャップリン
酒場の歌手 - エドナ・パーヴァイアンス
スクラップス - マット（犬）
屋台の主人 - シドニー・チャップリン

製作の背景

以前の契約を終えたチャップリンは、自身の力を最大限に発揮するために独立を計画していました。映画館主たちは、映画界の実力者に対抗するため、自前の映画を配給・上映できる組織を結成。それがファースト・ナショナルであり、チャップリンとの契約に成功しました。

チャップリンは自身のスタジオを建設し、独立への準備を進めます。新スタジオでの第一作として『心配無用』という仮題の作品に取り組み始めますが、スタジオの一般公開時に製作会議を盗み聞きされるという事件が発生。以降、チャップリンはスタジオの一般公開を禁止し、秘密主義を徹底することになりました。

犬との共演

チャップリンは過去にも犬と共演しており、本作以降も『黄金狂時代』、『街の灯』、『モダン・タイムス』などで犬を登場させています。彼は喜劇における犬の重要性を理解しており、喜劇に合う犬を探すことに苦労していたようです。様々な犬を試した結果、雑種の小型犬「マット」が起用されました。

作品の意義

『犬の生活』は、従来格下に見られていたコメディを芸術として扱われるきっかけを作った作品です。チャップリン研究家の大野裕之は、この作品を「特別な断絶点」と表現しています。

それまでのチャップリンのキャラクターは、弱者を貶めるような面がありましたが、『犬の生活』では心優しい一面が強調され、新たなイメージを確立しました。この作品は、チャップリンが喜劇の構造を深く考えるようになった時期の作品でもあります。

また、本作はチャップリンの模倣者であったビリー・ウェストの活動に終止符を打つ作品にもなりました。

後日談

チャップリンと初めて映画で共演した異父兄シドニーは、本作で屋台の主人役を演じました。

スクラップスを演じたマットは、チャップリンがツアーで不在の間、食事を取らなくなり、亡くなってしまいました。彼の墓碑には「マット、4月29日、傷心によりて死去」と記されています。

初公開から約40年後の1959年、チャップリンは本作を再編集し、音楽とナレーションを加えて『チャップリン・レヴュー』として公開しました。現行版はこの再編集版です。

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