シネマイーラ

静岡県浜松市中央区、活気あふれる田町の中心部に位置する「シネマイーラ」（CINEMA era）は、地域に根差した映画館、いわゆるコミュニティシネマとして運営されるミニシアターです。単一スクリーンを持ち、現在は152席を備えています。その経営を担うのは株式会社浜松市民映画館で、多くの市民や地元企業の支援によって成り立っています。JR浜松駅から北西へ約300メートル、遠鉄西鹿島線第一通り駅からもほど近い、アクセスの良い立地にあります。

浜松の映画史とシネマイーラの誕生

かつての浜松市は、繊維業から楽器製造、輸送機器製造へと産業が発展する中で、中心市街地には多くの映画館が集まり、活気ある映画街を形成していました。1960年のピーク時には市内に24館もの映画館が存在し、田町や肴町、鍛冶町などに集中していました。その中の一つに、シネマイーラのルーツとなる「浜松松竹座」（1946年開館）がありました。この劇場は後に「浜松東映劇場」と改称され、板屋町、そして1988年には現在の田町にある笠井屋ビルへと移転します。

移転後の浜松東映劇場は、当時の支配人であった榎本雅之氏の尽力により、東映作品終映後の時間帯に自主上映会「ムーンライトシアター」を開始しました。約20年間にわたり、国内外のアート系や単館系作品約1000本を上映し、浜松で多様な映画文化に触れる貴重な機会を提供しました。しかし、2000年代に入ると、郊外や中心市街地にシネマコンプレックス（シネコン）が登場し、多くの旧来型映画館が閉館に追い込まれます。浜松東映劇場もまた、観客数の低迷や建物の契約更新時期が重なり、2008年10月3日にその歴史に幕を下ろしました。

浜松から東映の直営館が消えると共に、アート系映画を継続的に上映する場が失われることを危惧した当時の支配人・榎本氏は、劇場を引き継ぎ、市民のための映画館として再生させることを決意します。東映を早期退職し、市民や地元企業からの出資を募って株式会社浜松市民映画館を設立。約2000万円をかけて劇場を改装し、座席数を減らしてステージを設けるなど、多目的に使える空間にしました。そして、浜松東映劇場の閉館からわずか2ヶ月後の2008年 12月5日、その跡地に「シネマイーラ」として新たなスタートを切ったのです。館名は、遠州弁の「いいら」（いいでしょう）と、エネルギーを意味する「energy」の頭文字を合わせた造語で、「いい映画に出会えるエネルギーあふれる場所」といった思いが込められています。

運営と特色

シネマイーラは、前身である浜松東映劇場時代の「ムーンライトシアター」の精神を受け継ぎ、ミニシアター系の多様な作品を中心とした独自のラインナップを展開しています。開館初年度には約150本もの作品を上映するなど、その選定には強いこだわりが見られます。2010年初頭には、全国のミニシアターに先駆けて約1500万円を投じてデジタル化を完了。これにより、上映作品の選択肢が飛躍的に広がり、より多くの作品を柔軟に提供できるようになりました。

客層は年配の女性が多く、館主の榎本氏は東京のル・シネマやTOHOシネマズシャンテに通うような観客に近いと分析しています。また、楽器製造が盛んな浜松という土地柄、ヤマハ関係者なども多く、音楽映画にも関心が高い傾向があります。

地域との繋がり

シネマイーラは、単に映画を上映するだけでなく、地域の映画文化振興にも積極的に関わっています。2002年に始まった「はままつ映画祭」では、2009年の第8回以降、主要な会場の一つとして利用されています。また、浜松を舞台にした映画や、浜松に関連の深いテーマを扱ったドキュメンタリー作品の上映・製作にも協力しています。例えば、浜松でロケが行われた『楽隊のうさぎ』では製作に関与し、浜松在住の日系ブラジル人を追った『孤独なツバメたちデカセギの子どもに生まれて』の上映にも協力しました。さらに、地元の竹山昌利氏が製作を務めた『バケツと僕!』では、館主の榎本氏がロケ地確保に奔走するなど、地域密着型の活動を展開しています。

経営の課題と支援

ミニシアターを取り巻く環境は厳しく、特にシネコンの存在は大きな影響を与えています。シネマイーラも例外ではなく、2020年の新型コロナウイルス感染拡大時には臨時休館を余儀なくされました。しかし、その際にはクラウドファンディングを実施し、目標額を大幅に上回る1600万円以上の支援金が集まり、運営資金だけでなく設備の修繕費に充てることができました。このことは、シネマイーラがいかに地域の人々に愛され、その存続が強く望まれているかを示しています。

コロナ禍を経て観客数は減少傾向にあり、経営は依然として厳しい状況が続いています。2023年からは劇場の維持に向けた寄付も募るなど、多角的な支援を呼びかけています。2024年7月には、長年劇場を牽引してきた榎本雅之氏から本多行彦氏へと館主（代表取締役社長）が引き継がれ、新たな体制で運営にあたっています。

シネマイーラは、単なる商業施設ではなく、浜松の文化拠点として、多様な映画作品を通じて人々に感動や気づきを与え、地域コミュニティを結びつける役割を果たしています。その歴史と取り組みは、地方におけるミニシアターの重要性と、それを支える地域の人々の熱意を物語っています。

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