シマアメンボ
シマアメンボ（Metrocoris histrio）は、カメムシ目のアメンボ科に分類される昆虫の一種です。多くの人がイメージする一般的なアメンボとは異なり、淡水に生息しながらもウミアメンボ亜科に属するという珍しい特徴を持ちます。主に山間部の渓流といった流れのある環境を生活の場としており、止水域で見かけることはありません。
本種は体長が約6mmと、アメンボの仲間としては比較的小型です。体型は独特で、足は長いものの胴体は幅が広く、ややずんぐりとして見えます。体色は淡黄色からくすんだ黄色を基調とし、その上に複雑な黒い筋状の模様が全身に広がります。これらの筋模様の太さには個体差があり、細い線から隣り合う線とほとんどくっつくほど太いものまで様々です。頭部は黄色く、中央には黒い縦筋が入ります。複眼は黒く、後方に向かって長く伸び、前胸の両側端に覆われる部分があります。触角は長く、付け根は黄色ですが、その先は黒褐色となります。触角は4つの節から成り、先端に向かうにつれて短くなり、特に一番根元の第1節が触角全体の半分以上を占めるほど長くなっています。前胸背と中胸背には、やはり複雑な黒い筋模様が見られます。腹部は短く、各節は黒色ですが、後ろ側の縁沿いは黄色く彩られています。脚はくすんだ黄色で、腿節には黒い線状の模様が見られ、脛節より先は黒くなっています。アメンボに特徴的な前脚の腿節は、本種では特に太くありません。
通常、成虫は翅を持たない無翅型ですが、稀に翅を持つ有翅型が出現します。無翅型に比べて、有翅型は前胸背が大きく発達し、後端が三角形に突き出した形状となり、体の全長は6.5〜7mmに達します。
シマアメンボは、その名の通り、山間部の渓流や低い台地の湧水といった流れのある場所に限定して生息します。池や沼のような止水環境では見られません。このような特定の環境に生息するにもかかわらず、その範囲内では比較的一般的に見られる種とされています。
日本国内では、北海道南部から九州まで、さらに奄美大島、徳之島、対馬にも分布しています。国外では朝鮮半島での生息が確認されています。
本種は水面を移動する際に、たいてい群れを形成しています。その動きは非常に素早く、水面を滑るように高速で移動します。餌は水面に落ちてきた小型の昆虫などを捕らえて食べます。また、シマアメンボは明確ではないものの縄張り行動を示すことが知られており、自身のテリトリーに入ってきた他の個体に対して攻撃行動を見せることがあります。縄張りの境界は曖昧ですが、個体をその場所から移動させても、再び元の位置に戻ろうとする習性が観察されています。
有翅型のメスは、交尾の際に翅の先端がちぎれるというユニークな特徴があります。産卵は、水草や水面に浮かんでいる物の水面下の部分に行われます。
越冬は主に幼虫または成虫の形態で行われると考えられています。しかし、その生活史には生息地の標高や気候による変異が見られます。例えば、愛知県では年に2世代を繰り返すという報告があり、和歌山県の調査では、高標高域では年1世代または部分的な2世代、温暖な低地では複数世代を経ることが確認されています。これに伴い、越冬するステージも高標高域では主に卵、中間域では卵と成虫、温暖な低地では卵、4-5齢幼虫、成虫と多様であり、生息環境の温度条件が生活史に影響を与えていることが示唆されています。
渓流のような流れの速い環境に生息する小型の動物、特に水底ではなく水面で活動する種類は、流れによって下流に流されてしまうリスクが高いと考えられます。特にシマアメンボは通常無翅型で飛ぶことができないため、この危険性が大きいと言えます。この点について行われた研究では、流れのある場所で個体を識別して移動を追跡した結果、やはり下流へ移動する個体が多かったものの、多くの個体が元の位置を維持していたことが分かりました。雨による増水後には下流への移動が増えることから、本種は普段から流れに逆らって泳いでいても、急流を遡ることは難しいと考えられます。また、高さが1.5m以上あるような落差のある場所では、個体の上流への移動が見られなかったことから、このような場所を越えることはできないだろうと推測されます。それでも同じ位置を維持できる仕組みとしては、普段の流れに逆らう運動能力に加え、増水時には岸辺の水たまりや陸地に一時的に避難したり、陸路を利用して移動したりすることが可能性として考えられています。なお、このような上流への移動には、飛行能力を持つ有翅型が関わっている可能性も指摘されていますが、詳しいことはまだ分かっていません。
シマアメンボは、ウミアメンボ亜科に所属するという点で、日本で一般的に見られるアメンボとは分類上大きく異なります。この亜科のほとんどの種は海に生息していますが、シマアメンボが属するシマアメンボ属 (Metrocoris) は、その中でも数少ない淡水性のグループです。シマアメンボ属は、西アジアから東南アジア、東アジアにかけて十数種が分布しており、日本本土に生息するのは本種のみです。そのため、日本本土では外見的にも大きく異なる普通のアメンボ類や、やはり海産のウミアメンボ類と見間違えるような種は存在しません。
ただし、日本の南西諸島、具体的には八重山諸島には、同属のタイワンシマアメンボ (M. lituralis) が分布しています。この種はシマアメンボと似ていますが、胸部背面の模様がより単純である点で区別されます。
シマアメンボは、環境省が作成するレッドデータブックでは絶滅の危機にある種としては取り上げられていません。しかし、都道府県によってはレッドリストに掲載されている場合があり、例えば東京都と長崎県では準絶滅危惧種に指定されています。
形態的特徴
本種は体長が約6mmと、アメンボの仲間としては比較的小型です。体型は独特で、足は長いものの胴体は幅が広く、ややずんぐりとして見えます。体色は淡黄色からくすんだ黄色を基調とし、その上に複雑な黒い筋状の模様が全身に広がります。これらの筋模様の太さには個体差があり、細い線から隣り合う線とほとんどくっつくほど太いものまで様々です。頭部は黄色く、中央には黒い縦筋が入ります。複眼は黒く、後方に向かって長く伸び、前胸の両側端に覆われる部分があります。触角は長く、付け根は黄色ですが、その先は黒褐色となります。触角は4つの節から成り、先端に向かうにつれて短くなり、特に一番根元の第1節が触角全体の半分以上を占めるほど長くなっています。前胸背と中胸背には、やはり複雑な黒い筋模様が見られます。腹部は短く、各節は黒色ですが、後ろ側の縁沿いは黄色く彩られています。脚はくすんだ黄色で、腿節には黒い線状の模様が見られ、脛節より先は黒くなっています。アメンボに特徴的な前脚の腿節は、本種では特に太くありません。
通常、成虫は翅を持たない無翅型ですが、稀に翅を持つ有翅型が出現します。無翅型に比べて、有翅型は前胸背が大きく発達し、後端が三角形に突き出した形状となり、体の全長は6.5〜7mmに達します。
生息環境と分布
シマアメンボは、その名の通り、山間部の渓流や低い台地の湧水といった流れのある場所に限定して生息します。池や沼のような止水環境では見られません。このような特定の環境に生息するにもかかわらず、その範囲内では比較的一般的に見られる種とされています。
日本国内では、北海道南部から九州まで、さらに奄美大島、徳之島、対馬にも分布しています。国外では朝鮮半島での生息が確認されています。
生態と習性
本種は水面を移動する際に、たいてい群れを形成しています。その動きは非常に素早く、水面を滑るように高速で移動します。餌は水面に落ちてきた小型の昆虫などを捕らえて食べます。また、シマアメンボは明確ではないものの縄張り行動を示すことが知られており、自身のテリトリーに入ってきた他の個体に対して攻撃行動を見せることがあります。縄張りの境界は曖昧ですが、個体をその場所から移動させても、再び元の位置に戻ろうとする習性が観察されています。
有翅型のメスは、交尾の際に翅の先端がちぎれるというユニークな特徴があります。産卵は、水草や水面に浮かんでいる物の水面下の部分に行われます。
越冬は主に幼虫または成虫の形態で行われると考えられています。しかし、その生活史には生息地の標高や気候による変異が見られます。例えば、愛知県では年に2世代を繰り返すという報告があり、和歌山県の調査では、高標高域では年1世代または部分的な2世代、温暖な低地では複数世代を経ることが確認されています。これに伴い、越冬するステージも高標高域では主に卵、中間域では卵と成虫、温暖な低地では卵、4-5齢幼虫、成虫と多様であり、生息環境の温度条件が生活史に影響を与えていることが示唆されています。
流水環境への適応と移動
渓流のような流れの速い環境に生息する小型の動物、特に水底ではなく水面で活動する種類は、流れによって下流に流されてしまうリスクが高いと考えられます。特にシマアメンボは通常無翅型で飛ぶことができないため、この危険性が大きいと言えます。この点について行われた研究では、流れのある場所で個体を識別して移動を追跡した結果、やはり下流へ移動する個体が多かったものの、多くの個体が元の位置を維持していたことが分かりました。雨による増水後には下流への移動が増えることから、本種は普段から流れに逆らって泳いでいても、急流を遡ることは難しいと考えられます。また、高さが1.5m以上あるような落差のある場所では、個体の上流への移動が見られなかったことから、このような場所を越えることはできないだろうと推測されます。それでも同じ位置を維持できる仕組みとしては、普段の流れに逆らう運動能力に加え、増水時には岸辺の水たまりや陸地に一時的に避難したり、陸路を利用して移動したりすることが可能性として考えられています。なお、このような上流への移動には、飛行能力を持つ有翅型が関わっている可能性も指摘されていますが、詳しいことはまだ分かっていません。
分類と近縁種
シマアメンボは、ウミアメンボ亜科に所属するという点で、日本で一般的に見られるアメンボとは分類上大きく異なります。この亜科のほとんどの種は海に生息していますが、シマアメンボが属するシマアメンボ属 (Metrocoris) は、その中でも数少ない淡水性のグループです。シマアメンボ属は、西アジアから東南アジア、東アジアにかけて十数種が分布しており、日本本土に生息するのは本種のみです。そのため、日本本土では外見的にも大きく異なる普通のアメンボ類や、やはり海産のウミアメンボ類と見間違えるような種は存在しません。
ただし、日本の南西諸島、具体的には八重山諸島には、同属のタイワンシマアメンボ (M. lituralis) が分布しています。この種はシマアメンボと似ていますが、胸部背面の模様がより単純である点で区別されます。
保全状況
シマアメンボは、環境省が作成するレッドデータブックでは絶滅の危機にある種としては取り上げられていません。しかし、都道府県によってはレッドリストに掲載されている場合があり、例えば東京都と長崎県では準絶滅危惧種に指定されています。
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