シャルル・ド・ブロス

シャルル・ド・ブロス

シャルル・ド・ブロス（Charles de Brosses, 1709年 - 1777年）は、フランス啓蒙主義を代表する思想家、比較民族学者、そしてヒューマニストです。公職としてはブルゴーニュ高等法院の院長を務め、同時代の碩学たちが集結した『百科全書』にも寄稿しています。

ブルゴーニュ地方のディジョンに生まれたド・ブロスは、21歳でブルゴーニュ高等法院の評定官に就任しました。彼は公務の傍ら、歴史、地理、言語、そしてラテン文学を含む古典研究に熱心に取り組みました。1739年から1740年にかけてイタリアを旅行し、その際の体験をまとめた紀行文は、文芸や建築における中世の規範を軽視し、ヒューマニズムを高く評価する姿勢が顕著でした。この旅行と研究活動を通して、彼は深い学識と実証的な探求心を培っていきました。

1746年以降、ド・ブロスは以下のような重要な著作を世に送り出しました。

『都市ヘルクラヌムの現状』（Lettres sur l'état actuel de la ville d'Herculanum, 1750年）
『南方の地航海史』（Histoire des navigations aux terres australes, 1756年）
『フェティシュ諸神の崇拝』（Du Culte des dieux fétiches, 1760年）
『言語形成のメカニズム論』（Traité de la formation mécanique des langues, 1765年）
* 『共和制ローマ七百年史』（Histoire de la République romaine dans le cours du Ⅶ siècle, 1777年）：彼の最晩年の著作です。

これらの著作の中でも、特に後世に大きな影響を与えたのが、1760年に匿名で刊行された『フェティシュ諸神の崇拝』です。深い学識と実証的な探求心を持つド・ブロスは、この著作において、人類史における最も古い信仰様式を「フェティシズム」と名付けました。この言葉は、イタリア語で「護符」を意味する「fetico」に由来します。彼のこのフェティシズムの概念は、後にドイツ語訳を通じてカール・マルクスの目に留まり、彼の理論構築における重要な着想の一つとして取り入れられることになります。

ビュフォンやルソーと同時代を生きたド・ブロスは、当時の最先端の研究手法であった比較宗教学の観点から、当時のアフリカやアメリカ大陸に息づく、より古い段階の信仰形態を研究対象としました。そして、これらの土着信仰をフェティシズムと呼び、その特徴を以下のように整理しました。

彼は、フェティシズムは、本来の宗教が成立する以前の段階にあると考え、宗教の一形態である偶像崇拝（Idolatrie）よりも古い起源を持つと位置づけました。

宗教ではないフェティシズムと、宗教に分類される偶像崇拝との間には、決定的な違いがある、とド・ブロスは論じました。例えば、フェティシズムにおいては、崇拝者が自らの手で目に見える神体、すなわちフェティシュを自然物の中から選び取ります。一方、偶像崇拝では、神は目に見えない存在として、偶像の背後に宿ると考えられます。すなわち、フェティシズムではフェティシュそのものが神そのものであると見なされますが、偶像崇拝における偶像は、いわば神の代理物や象徴に過ぎないのです。その背後、あるいは天上には、より高次の神霊が存在するというのが偶像崇拝の考え方です。

さらに、両者の違いは、信徒と対象との関係性にも現れます。フェティシズムでは、信徒の願いが叶えられない場合、フェティシュが虐待されたり放棄されたりすることもあります。これに対し、偶像崇拝における神霊は、信徒にとって絶対的な存在であり、そのような扱いを受けることはありません。このように、ド・ブロスはフェティシズムを一般的な宗教の範疇から明確に区別して論じたのです。

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