シャルル・フーリエ

シャルル・フーリエ：情念と協同体の思想家

1772年、フランスのブザンソンで裕福な商人の家に生まれたフランソワ・マリー・シャルル・フーリエは、幼い頃から商業社会に疑問を抱いていました。しかし、9歳で父を亡くし、家業を継ぐためヨーロッパ各地を巡る厳しい修業生活を送ることになります。

リヨンで生活を安定させつつあったフーリエは、1793年のリヨン包囲という悲劇的な出来事に巻き込まれ、投獄され、多大な財産を失います。この経験は、彼の人生観と社会思想に深い影を落としました。革命への不信感を抱いたフーリエは、その後、店員や行商人として働きながら、独自の社会理論の構築に没頭します。

1808年、フーリエは代表作『四運動の理論』を発表します。この中で、彼は宇宙に物質的、有機的、動物的、そして社会的な4つの運動が存在すると主張し、社会運動を支配する法則として「情念引力」という独自の概念を提唱しました。これは、ニュートンの万有引力に匹敵する発見だとフーリエ自身は考えていました。

この「情念引力」に基づき、フーリエは理想的な社会組織「ファランジュ」を構想します。ファランジュは、約1620人の人々が共同生活を送る農業共同体で、土地や生産手段を共有し、自給自足を基本とした持続可能な社会を目指していました。しかし、フーリエの奇抜な理論は、当時の社会から嘲笑の対象となり、理解されることはありませんでした。

それでもフーリエは諦めませんでした。1822年には『家庭・農業アソシアシオン論』、1829年にはその要約版『産業的協同社会的新世界』を出版しますが、大きな反響を得ることはありませんでした。それでも彼は毎日正午に帰宅し、ファランジュ建設のための資金提供者を待ち続けたと言われています。晩年にはパリで、弟子たちと「エコール・ソシエテール」を結成し、思想の普及に尽力しました。1967年には、これまで未発表だった『愛の新世界』が発見・出版され、フーリエの思想の全貌が明らかになりました。

フーリエの哲学は、「社会的、動物的、有機的、物質的」という四運動の理論に基づいています。彼は、過去の哲学者たちが物質的運動しか研究対象としていなかったと批判し、独自の哲学体系を構築しました。運命を「万有運動に関する神の数学的法則の帰結」と定義し、四つの主要部門に分類することで、世界を理解しようと試みました。

フーリエは「情念引力」という概念を重視しました。12の基本的な情念とその相互関係から成るこの理論は、彼の社会思想の基盤となっています。この理論は、初期から晩年まで一貫して彼の著作に現れ、彼の社会哲学を支える重要な柱となっています。

フーリエの社会思想は、産業革命時代の社会問題に対する鋭い批判と、理想的な協同体の提案から成り立っています。当時のヨーロッパ社会は、産業主義によって労働者が搾取され、革命による暴力もまた悲惨な結果を生み出していました。フーリエは、国家の支配を受けない、自給自足型の共同体「ファランジュ」を提案し、労働時間の短縮や女性の権利尊重など、革新的な政策を提唱しました。

マルクスによって「空想的社会主義」と評されたフーリエですが、20世紀以降、シュールレアリスムの作家や哲学者たちによって再評価され、その思想は現代社会においても重要な意味を持つようになりました。ロラン・バルト、ヴァルター・ベンヤミン、ジル・ドゥルーズといった著名な思想家や、アンドレ・ブルトン、オクタビオ・パスといった文学者たちが、フーリエの思想に影響を受け、あるいは賞賛しました。エンゲルスもフーリエを高く評価しており、「空想的社会主義」というレッテルは、必ずしも正確な評価ではないと言えるでしょう。

フーリエの著作は、現在も日本において翻訳・出版されており、彼の思想は、現代社会を考える上で貴重な知見を提供し続けています。

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