シャルル・モワソン

シャルル・モワソン（Charles Moisson, 1864-1943）

シャルル・モワソンは、19世紀後半から20世紀半ばにかけて活躍したフランスのサイレント映画における重要な技術者であり、また監督としても知られています。彼は特に、映画の誕生に深く関わったリュミエール兄弟の右腕として、その技術開発や初期の普及活動に貢献しました。

リュミエール兄弟との協働

モワソンは、映画の先駆者であるリュミエール兄弟の元で技術者としてキャリアをスタートさせました。当初、彼は兄のオーギュストと共に新しい映像装置の開発に取り組みましたが、この試みは成功に至りませんでした。しかし、弟のルイと組んでからは状況が一変します。モワソンは、ルイが構想したシネマトグラフの初期モデル製作において中心的な役割を果たし、そのプロトタイプを完成させることに成功しました。これらの試作機は、後にパリの技術者ジュール・カルパンティエによってさらに改良が加えられ、実用的な映画撮影・映写機として完成しました。

初期の映画普及と記録活動

シネマトグラフが完成した後、モワソンはその普及と「動く写真」の記録活動に貢献しました。彼は1895年12月28日、パリのオテル・スクリブ内グラン・カフェの「サロン・ナンディアン」で開催された、リュミエール・シネマトグラフにとって記念すべき最初の有料公開上映において、実際に映写を担当した人物です。この出来事は、一般大衆が初めて映画を有料で鑑賞した歴史的な瞬間となりました。

また、リュミエール兄弟が世界各地に彼らの「アニメーションする写真」（ルイ・リュミエールはこのように呼び、エジソンの言う「フィルム」に相当するものでした）のカタログを拡充するために派遣した多数の技術者の一人でもありました。彼は世界各地を旅し、様々な出来事や風景を映像として記録しました。特に注目される業績としては、フランシス・ドゥブリエと共にロシア皇帝ニコライ2世の戴冠式を映像に収めたことが挙げられます。これは、歴史的な儀式を記録した初期の貴重なドキュメンタリー映像として知られています。

映画史における「最初の報道」

シャルル・モワソンの功績の中でも、特に「映画史における最初の報道」と称されるのは、1897年4月に行われたフランス共和国大統領フェリックス・フォールの旅行に同行し、その様子を撮影したことです。この時、フォール大統領はフランス西部を巡る旅に出ており、モワソンは約10日間にわたってその旅に随行しました。

彼は毎日、50秒から55秒程度の長さを持つ「リュミエール映像」と呼ばれる一連のフィルムを撮影しました。これは、まさに現代のニュース映像の原型ともいえるものであり、サイレントながらも当時の出来事を記録した初期の試みでした。歴史家セルジュ・ヴィアレはこの大統領随行撮影を高く評価し、モワソンこそが「映画史における最初の報道」を行った人物であると評しています。

興味深いことに、1897年という映画がまだ黎明期にあった時代にもかかわらず、フェリックス・フォール大統領をはじめとする同行者や大臣たちは、この新しいメディアが持つ記録性と影響力の重要性をよく理解していました。大統領自身も、旅先で群衆に向かって話すだけでなく、しばしばカメラに向かって直接挨拶をする姿が見られました。これは、政治家が意識的に映像メディアを利用しようとした初期の事例として非常に示唆深いエピソードです。

シャルル・モワソンは、シネマトグラフの実用化から世界各地での普及、そして初期の報道活動まで、映画が単なる娯楽を超えて記録や情報伝達のメディアへと発展していく過程で、その技術力と活動力をもって多大な貢献を果たした人物と言えるでしょう。彼の残した映像記録は、当時の社会や出来事を知る上で貴重な資料となっています。

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