シネマトグラフ

シネマトグラフ：映画の夜明けと発展、そして終焉

1895年、フランスのリュミエール兄弟によって発明されたシネマトグラフは、映画の歴史に革命をもたらした装置です。撮影、上映、現像を一台でこなすその簡便さは、後の映画産業の発展に大きな影響を与えました。本稿では、シネマトグラフの技術的な側面から、世界への普及、そしてその衰退に至るまでを詳細に解説します。

シネマトグラフの名称と仕組み

「シネマトグラフ」という名称は、ギリシャ語の「運動(kinematos)」と「記録(graphein)」を組み合わせた造語です。リュミエール兄弟が命名したわけではなく、先行する発明家の装置にも使用されていましたが、リュミエール兄弟のシネマトグラフが広く普及したことで、やがて映画そのものを指す言葉として一般化しました。「シネマ」も、このシネマトグラフに由来する言葉です。

シネマトグラフは、硬材製の小さな箱に収まる5キロほどの軽量な装置でした。手動クランクで操作され、電気は不要だったため、持ち運びも容易でした。ジョルジュ・サドゥールは、その簡便さを「世界の到るところでも活動できる一種の魔法の旅行鞄」と表現しています。

撮影と映写は、フィルムを1コマずつ停止・送る間欠機構によって実現されました。この機構は偏心カムと爪を用いたもので、毎秒16コマの速度でフィルムを送ることによって、ストロボ効果により動く映像を映し出しました。この速度は、後のサイレント[[映画]]時代の標準速度となりました。

ポジフィルムは、ネガフィルムを未露光のフィルムに重ねて再露光することで作成されました。光源には太陽光が用いられることもありました。使用フィルムは、35ミリ幅のセルロイドフィルムで、1作品は約50秒間の長さでした。この35ミリ幅のフィルム規格は、後に国際標準規格として定着しました。

シネマトグラフの開発：先行研究と独自の工夫

シネマトグラフは、リュミエール兄弟だけの発明ではありません。カメラ・オブスキュラ、幻灯機、フェナキスティスコープなどの先行研究、そして写真技術の進歩が、シネマトグラフ誕生の土台となりました。特に、エティエンヌ＝ジュール・マレーのクロノフォトグラフィや、トーマス・エジソンのキネトスコープは、シネマトグラフに直接的な影響を与えたと考えられています。

マレーのクロノフォトグラフィは、フィルムを間欠的に停止させて露光する機構を採用しており、これは現在の映画カメラの基本的な技術となっています。キネトスコープはスクリーンへの投影ではなく、個人が覗き込む方式でしたが、リュミエール兄弟はキネトスコープの大衆的な人気に着目し、スクリーンへの投影というアイデアを取り入れました。

シネマトグラフ開発における最大の課題は、正確なフィルム送り機構の開発でした。オーギュストが最初に挑戦しましたが失敗し、ルイがミシンの布送り機構から着想を得て、爪を用いた独自の機構を考案しました。この革新的な機構は、シネマトグラフの大きな特徴となりました。

1895年2月13日、シネマトグラフは特許を取得し、同年3月22日にはパリの国立工業奨励協会で最初の公開上映が行われました。

ルイ・リュミエールによる撮影：初期作品の特徴

リュミエールの初期作品は、工場の従業員の退社風景を捉えた『工場の出口』など、主に日常の光景を記録したドキュメンタリー的な作品が中心でした。家族や従業員を被写体にしたホームムービー的な要素も強く、他に『赤ん坊の食事』『水をかけられた散水夫』などがあります。

『水をかけられた散水夫』は、ユーモラスな演出が施された作品で、世界初の喜劇映画と評価されています。

シネマトグラフの公開：商業上映と成功

1895年3月から11月にかけて、リュミエール兄弟は、学者や専門家を対象としたシネマトグラフの上映会を数回開催しました。これらの上映会は、映画界に大きな衝撃を与え、後の映画産業の発展に貢献する人材を輩出しました。

1895年12月28日、パリのグラン・カフェで、シネマトグラフによる最初の商業上映が行われました。この日が一般的に「映画の誕生」とされています。当初は興行収入は低調でしたが、すぐに人気が爆発し、連日多くの観客を集めました。上映された作品は、ルイが撮影した短編作品が中心でした。

シネマトグラフの世界への普及と衰退

グラン・カフェでの成功を受け、リュミエール社はシネマトグラフを世界中に広める事業を開始しました。各地に技師を派遣し、上映会と撮影を行いました。シネマトグラフは短期間でヨーロッパ、アメリカ、アジア、オーストラリアなど世界中に広がり、多くの国の映画史の始まりとなりました。

しかし、シネマトグラフの成功により競合他社が続々と登場し、市場は競争激化しました。リュミエール社は当初、シネマトグラフを独占的に管理していましたが、需要の高まりに対応しきれなくなり、1897年には販売を開始しました。しかし、より優れた装置が登場したこともあり、シネマトグラフの販売は成功せず、1905年には映画撮影を中止しました。

リュミエール映画：技術的試みと多様な作品群

1895年から1905年にかけて、リュミエール社は1400本以上の作品を制作しました。これらの作品は、世界各地の日常風景や公式行事などを記録した実写映画が中心でした。リュミエール映画は、トリック撮影や移動撮影など、いくつかの技術的な試みも行われました。

各国での上映と撮影：世界に広がる映画

シネマトグラフは、世界中で上映され、各地の映画産業発展の礎となりました。本稿では、フランス、イギリス、ロシア、スペイン、アメリカ、カナダ、メキシコ、インド、オーストラリア、日本など、世界各国のシネマトグラフの上映と撮影の状況について詳細に記述しています。特に、日本における稲畑勝太郎や吉沢商店によるシネマトグラフの上映と、リュミエール社技師による撮影についても、詳細な情報を掲載しました。

結語

シネマトグラフは、映画の歴史において極めて重要な役割を果たした装置です。その簡便な仕組みと世界的な普及は、映画を大衆娯楽として定着させ、後の映画産業の隆盛へと繋がりました。本稿が、シネマトグラフと初期映画の歴史を理解する上で、一助となれば幸いです。

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