シャルル＝ルイ・トリュデーヌ夫人の肖像

シャルル＝ルイ・トリュデーヌ夫人の肖像

『シャルル＝ルイ・トリュデーヌ夫人の肖像』は、ジャック＝ルイ・ダヴィッドが1791年から1792年に制作した新古典主義の油彩作品です。この肖像画は、ダヴィッドの代表作の一つでありながら、モデルに関して長年の間議論が続いています。一般的には、フランスの政治家シャルル＝ルイ・トリュデーヌ・ド・モンティニーの妻、ルイーズ・ミコー・ド・クルーブトンであると考えられています。現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されています。

作品の内容

ダヴィッドは、黒いシンプルなドレスをまとったトリュデーヌ夫人を木製の椅子に座らせて描写しています。彼女はバックラムのフィシューを肩にかけ、胴に優美に巻きつけると同時に、青い帯を腰に装飾しています。両腕を太股の付け根の上に置き、目は真っ直ぐに鑑賞者を見つめています。

背景には赤い壁が描かれており、作品全体に革命期の苦しみを反映させているかのようです。その背景と対照的に、夫人は静かな表情で困惑したようすで視線を送り、観る者に強い印象を残しています。いかにもダヴィッドらしい厳粛さが現れつつも、彼はこの女性に潜む恐れを巧みに表現しています。

ダヴィッドの技術は、トリュデーヌ夫人の華奢な身体を堂々と、不安を感じさせないように表現した点にあります。彼女のポーズは、同時期の『パストレ夫人の肖像』や、後年にウジェーヌ・ドラクロワが描いた『ヴェルニナック夫人の肖像』と共通する点があります。背景の大胆な色彩によって、トリュデーヌ夫人の姿は一層際立って見えます。

モデルの特定

長い間、この肖像のモデルは、画家のクロード・ジョゼフ・ヴェルネの娘であるマルグリット・エミリー・シャルグランだと考えられてきましたが、現在は否定されています。実際のモデルはシャルル＝ルイ・トリュデーヌの妻、ルイーズ・ミコー・ド・クルーブトンであるとされています。トリュデーヌ夫人の周囲には、一緒に断頭台で処刑されたという悲劇的な人物たちが存在し、ダヴィッドの作品に対する影響も計り知れません。

作品の来歴

この肖像画は、ダヴィッドの死去まで彼のコレクションから離れなかったとされています。1826年の作品目録にはトリュデーヌ夫人の肖像として記載されましたが、その後の競売では売れ残りました。ダヴィッドの妻の目録評価も含め、作品の本格的な流れはよくは知られていませんが、その後、グヴェロ侯爵によって購入され、オラース・ヴェルネに贈られました。最終的に、オラース・ヴェルネのコレクションは、彼の義理の息子に引き継がれ、1890年にはルーヴル美術館に寄贈されました。

影響と後に続く作品

ダヴィッドのこの作品は、後世の新古典主義の画家たち—特にドミニク・アングルやポール・ドラローシュ—に多大な影響を与えています。特にカラーの使用と構図が後の作品にも色濃く反映されています。アングルの肖像画やドラローシュの作品には、この手法が用いられています。

ダヴィッドによって生み出されたこの未完成の肖像画は、単なる一つの作品を超えて、多くの画家に影響を与えると同時に、当時の政治的背景や個々の人生にも光を当てる重要な存在として位置付けられています。

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