シャーロット・スコット

シャーロット・アンガス・スコット

シャーロット・アンガス・スコット（Charlotte Angas Scott、1858年6月8日 - 1931年11月10日）は、イギリスに生まれ、後にアメリカ合衆国で活躍した女性数学者です。特に女性の数学教育の推進と、アメリカ合衆国における数学研究の発展に多大な貢献をしました。また、イギリスのケンブリッジ大学における数学科優等卒業試験（数学トライポス）において、女性が受験し正式に評価されるようになる歴史的な規則変更のきっかけを作った人物としても知られています。

生い立ちと教育

スコットは1858年、会衆派教会の牧師カレブ・スコットとイライザ・エクセリー・スコット夫妻の7人の子供たちの次女として生まれました。1876年から1880年にかけて、奨学金を得てガートン・カレッジで学び、その後1884年まで数学の研修講師を務めました。

当時のイギリスでは、女性が大学で学位を取得することは非常に困難でした。ケンブリッジ大学では、1948年まで女性に正式な学位を授与していませんでした。スコットはケンブリッジ大学で著名な数学者アーサー・ケイリーのもとで研究を行いましたが、学位は取得できませんでした。その代わりに、ロンドン大学の外部試験を利用して、1882年に理学士号（BSc）、そして1885年にはイギリスで初めて博士号を取得した女性の一人となりました。

ケンブリッジ大学トライポスでの快挙

スコットのキャリアにおいて特筆すべき出来事は、1880年のケンブリッジ大学数学トライポスへの挑戦です。当時、この試験は通常女性の受験を認めていませんでしたが、スコットは異例の特別許可を得て受験に臨みました。試験結果において、彼女は男性受験者の中で8位に相当する成績を収めました。これは「エイス・ラングラー」（8位の成績優秀者に与えられる称号）に値するものでしたが、当時は女性に学位やそれに準ずる称号が授与されなかったため、この栄誉は公式には男性に与えられることとなりました。

この年のラングラー授与式では、7人目の成績優秀者に称号が与えられた後、スコットに称号が与えられないことへの反発から、列席した学生たちが一斉にシャーロット・スコットの名を叫び、その功績を称えました。スコット自身は式典への立ち入りを許されませんでしたが、ガートン・カレッジでは彼女の成功を祝う盛大な祝賀会が開かれ、喝采と歓声の中、「見よ、勇者は帰る」が歌われ、職員からの頌歌と月桂冠が贈られました。

この一件は世論に大きな影響を与え、後にケンブリッジ大学は女性の数学トライポス受験を公式に認め、試験結果も公表するようになりました。ただし、依然として女性の結果は男性とは別に扱われ、優等学位に足る成績を収めた女性には、学位の代わりに特別な証明書が授与されるにとどまりました。しかし、この出来事が女性の高等教育における歴史的な転換点となったことは間違いありません。1922年には、数学者のジェームズ・ハークネスが、スコットの功績を「イングランドにおける、ミルらに代表される理論的なフェミニズムから、現代の実践的な教育および政治的進歩への転換点」と評価しています。

アメリカでの活動と後進の育成

1885年、スコットは活躍の場をアメリカ合衆国に移しました。フィラデルフィア近郊に新設されたブリンマー大学に創立時の8人の教員の一人として招聘され、数学の準教授に着任しました。1888年からは正教授となり、1917年までその職を務めました。また、彼女はブリンマー大学で最初の数学者による学部長でもありました。このブリンマー大学での期間に、スコットは多くの女性数学者の育成に力を注ぎ、博士課程の学生たちを指導しました。特に、19世紀に数学で博士号を取得した女性はわずか9人でしたが、そのうち3人がスコットの指導を受けていました。

数学的業績と学会での活躍

スコットの数学的な研究は、主に2次以上の代数曲線に関する分野に貢献しました。彼女の著書『平面解析幾何学における特定の近代的思想と手法への入門』（An Introductory Account of Certain Modern Ideas and Methods in Plane Analytical Geometry）は1894年に出版され、その後30年間にわたり増版が重ねられるなど、数学教育において広く利用されました。この本の特徴として、一般原理と特定の例の区別を「完璧に識別する」ことに意図的に焦点を当てて記述されており、英語で書かれた教科書としては初期の重要な例とされています。また、彼女は20世紀の数学における抽象的な証明の慣習を変える上でも重要な役割を果たしたと言われています。

学会活動においても、スコットは女性の先駆者でした。1891年には、ニューヨーク数学会（後のアメリカ数学会）に女性として初めて入会しました。1894年の学会議会に女性として初めて参加し、1896年にはその活動が学会から高く評価されました。さらに、アメリカで書かれた数学論文としてヨーロッパで広く認知された最初のものの一つとされる「ネーターの基礎定理の証明」（A Proof of Noether's Fundamental Theorem, Mathematische Annalen, Vol. 52, 1899）の著者でもあります。1897年にチューリッヒで開催された国際数学者会議には、参加したわずか4人の女性数学者の一人として出席しました。1906年にはアメリカ数学会の副会長に選出されています。

女性の地位向上への信念

スコットは、個人的には保守的な価値観を持っていましたが、女性の教育的および政治的な平等を推進することを使命と考えていました。彼女は喫煙や化粧を好まない一方、ブリンマー大学赴任前は当時としては異例であった短髪（ボブスタイル）にしていた時期もありました。女性が一人で外出するだけで投獄される可能性があったケンブリッジ大学での経験が、初期のガートン・カレッジにおける女性たちのコミュニティ形成と自立の意識に影響を与えたと考えられています。彼女は、女性に質の高い教育を提供することの重要性を強く信じ、女性クラスにおける教育の厳格さを支持していました。

晩年

1906年、スコットは急性関節リウマチを発症し、難聴を伴うなど健康状態が悪化し、研究活動に大きな支障が生じました。医師から運動を勧められたことがきっかけでガーデニングに没頭するようになり、キク属の新しい品種を開発したと言われています。1924年にブリンマー大学での教職を引退しましたが、博士課程の学生8人の論文完成を支援するため、さらに1年間大学に留まりました。その後、故郷イギリスのケンブリッジに戻り、静かに暮らしました。

シャーロット・アンガス・スコットは1931年11月10日に亡くなりました。ケンブリッジのアセンション教区墓地に、いとこのイライザ・ニーヴィンの墓に共に埋葬されています。

遺産

女性の高等教育と数学研究におけるパイオニアとしてのスコットの功績は、後世に語り継がれています。2016年には、ケンブリッジ大学議会が大学の北西開発地区内の物理的特徴の一部に、彼女の名前を冠することを承認しました。これは、ケンブリッジ大学における女性の教育機会拡大に貢献した彼女の功績を記念するものです。

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