シュリッツ (ビール)

シュリッツ：アメリカを代表するビールブランドの興亡

シュリッツ（Schlitz）は、かつてアメリカ合衆国で絶大な人気を誇ったビールブランドであり、その名を冠した醸造会社でもありました。2009年以降は、パブスト（Pabst Brewing Company）がブランド権利を所有しています。最盛期には「ミルウォーキーを有名にしたビール」というキャッチコピーで知られ、労働者階級に愛されるビールとして親しまれていました。

シュリッツの歴史

創業

シュリッツのルーツは、1849年にドイツ系アメリカ人のオーガスト・クラグが設立した小さな醸造所、クラグ醸造会社に遡ります。当初は年間250バレル程度の生産量でしたが、この小さな醸造所が後の巨大ビール帝国へと発展していく基礎となりました。

シュリッツ社の創業者であるジョセフ・シュリッツは、1831年にドイツで生まれました。1850年にアメリカに移住し、その後、同胞のクラグの醸造所で書記係として働きます。クラグが亡くなると、シュリッツは彼の未亡人から会社を買い取り、自身の名を冠した「Joseph Schlitz Brewing Co.」として再スタートを切りました。1870年には新工場を設立し、年間1万2000バレル以上の生産量を誇るまでに成長しました。

シカゴ大火と躍進

シュリッツの成長を決定づけたのは、1871年のシカゴ大火です。シカゴのビール醸造所のほとんどが焼失した中、シュリッツは数千バレルのビールをシカゴに輸送し、水不足に苦しむ人々を救いました。この貢献により、シュリッツはシカゴ市場での販路を拡大し、新たな愛飲者を獲得することに成功しました。

1872年には「ミルウォーキーを有名にしたビール」というキャッチコピーが生まれ、その年の売り上げは前年の2倍に跳ね上がりました。シュリッツはシカゴに多くの特約居酒屋を設け、煉瓦壁にブランドロゴを掲げました。これらの建物は、今もなお一部が残されています。

しかし、ジョセフ・シュリッツは1875年にドイツへの帰郷中に客船事故で亡くなります。彼の死後、会社の経営はオーガスト・クラグの甥であるオーガスト・ユーレインとその兄弟たちに引き継がれました。

ビール業界の旗頭として

ユーレイン兄弟の経営の下、シュリッツ社は20世紀初頭には全米第3位のビール会社に成長しました。禁酒法時代には一時的に社名を変更し、モルトやソフトドリンクの生産で事業を継続しましたが、禁酒法解除後は再びビール醸造を再開し、1947年には売上高で全米トップに躍り出ました。その後、1950年代にはアンハイザー・ブッシュと首位争いを繰り広げましたが、1957年以降は首位を奪還することはできませんでした。

1950年代には「オールド・ミルウォーキー」を発売し、1960年代には缶ビール市場にも参入しました。しかし、1970年代に入ると、シュリッツの凋落が始まります。

凋落

1961年にCEOに就任したロバート・ユーレインは、コスト削減と大量生産を推し進め、一時的に売上を伸ばしましたが、品質低下を招きました。同時期にライバルのアンハイザー・ブッシュがバドワイザーの高級路線を打ち出したのに対し、シュリッツは品質を落としたというイメージが定着し、消費者からの支持を失いました。1976年には、泡安定剤の変更による品質低下とリコールが発生し、ブランドイメージを大きく損ないました。

1976年にロバートが急死すると、経営はさらに混乱し、売上も大幅に減少しました。訴訟問題も重なり、シュリッツは凋落の一途を辿りました。

買収

1978年にR.J.レイノルズ社との買収交渉が決裂した後も、シュリッツは買収の標的となり続けました。1981年にはミルウォーキー工場のストライキが致命傷となり、1982年にストロー社に買収されました。その後、1990年代にはパブスト社に「シュリッツ」ブランドが売却されました。

「シュリッツ」ブランドは生産が続けられましたが、次第に安価なビールとしての位置づけとなっていきました。

クラシックスタイルの復活

2008年、シュリッツ社は「1960年代に生産されていたシュリッツを再現した」と発表しました。当時の醸造法を調査し、復刻版として市場に投入しました。これにより、現在は2種類の「シュリッツ」が存在することになります。クラシックスタイルの投入は市場から好意的に受け止められており、今後の展開に注目が集まっています。

シュリッツとミルウォーキー

かつてシュリッツ社の建物があった場所は「シュリッツ・パーク」というビジネスパークに生まれ変わり、様々な施設として利用されています。また、ユーレイン一族は、ミルウォーキーのサッカー場やコンサートホールなどにその名を残し、地域社会に多大な貢献をしました。

シュリッツは、アメリカのビール史にその名を深く刻んだブランドです。その栄光と凋落の歴史は、ビジネスにおける品質の重要性を物語っています。

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