シリアス・ムーンライト

デヴィッド・ボウイ『シリアス・ムーンライト』

デヴィッド・ボウイのライブ・ビデオ作品『シリアス・ムーンライト』（Serious Moonlight）は、彼のキャリアにおいて特に商業的に成功を収めた時期を捉えた貴重な記録である。1984年に発表された本作は、1983年に世界中で展開された大規模な「シリアス・ムーンライト・ツアー」の中から、同年9月12日にカナダのバンクーバーで行われた公演の模様を映像に収めている。

「シリアス・ムーンライト・ツアー」は、ボウイにとって当時最大のヒット作となったアルバム『レッツ・ダンス』のリリースに伴って敢行されたものだ。ナイル・ロジャースをプロデューサーに迎えて制作された同アルバムは、従来のボウイの音楽性とは異なる、より洗練されたポップかつファンキーなサウンドを展開し、世界中のチャートで軒並み1位を獲得した。このアルバムの成功により、ボウイはより広い層からの支持を得ることに成功し、それに呼応するように「シリアス・ムーンライト・ツアー」はスタジアム級の大会場を含む大規模なものとなった。世界各地で熱狂的な歓迎を受け、ボウイのパフォーマーとしての人気を不動のものとしたツアーとして記憶されている。バンクーバー公演は、この歴史的なツアーの終盤に位置しており、バンドとボウイのパフォーマンスが最高の状態にあった時期の記録と言えるだろう。

映像作品『シリアス・ムーンライト』には、バンクーバー公演で披露された楽曲のほぼ全編が収録されている。このツアーでは、『レッツ・ダンス』からのヒット曲はもちろん、キャリア初期から中期にかけての代表曲が大胆なアレンジで披露され、ファンを大いに沸かせた。映像を通じて、当時のボウイの堂々としたステージング、バックバンドのタイトな演奏、そして会場を埋め尽くした観客の熱狂的な雰囲気を鮮明に感じ取ることができる。ただし、惜しくも公演で演奏された全曲が収録されているわけではなく、「レッド・セイル」、「スター」、「ステイ」、「ジーン・ジニー」、そしてアルバムからの大ヒット曲である「モダン・ラヴ」といった一部の楽曲は、映像作品からは残念ながら漏れている。それでもなお、本作はツアーの空気感を伝える映像記録として、非常に価値が高い。

このライブ音源は、後に単体の音楽作品としても公式にリリースされている。最初に音源が登場したのは、2018年に発売されたボウイの年代別ボックス・セット『ラヴィング・ジ・エイリアン(1983-1988)』の中であった。このセットの一部として、バンクーバー公演のライブ・アルバムが収録された。さらに翌年の2019年には、『シリアス・ムーンライト (ライヴ '83)』というタイトルで、このライブ音源が初めて単体のアナログ盤やCDとしてリリースされ、より多くのリスナーが入手可能となった。単体リリースされたアルバム版には、映像作品には収録されなかった「モダン・ラヴ」のライブ音源がボーナス・トラックとして追加されている点が特筆される。この「モダン・ラヴ」は、バンクーバー公演のものではなく、1983年7月13日にカナダのモントリオールで行われた公演で録音されたものであり、もともとシングル「モダン・ラヴ」のB面に収録されていた音源である。単体アルバムにこの音源が追加されたことで、リスナーはツアーで披露された主要な楽曲の一つを、改めてライブ音源として楽しむことができるようになった。

『シリアス・ムーンライト』は、単なるライブ記録に留まらず、デヴィッド・ボウイが『レッツ・ダンス』期に到達した商業的成功と、それに応えるように展開された大規模なツアーの熱狂を体現する作品である。映像と音源、それぞれ異なるフォーマットでリリースされたことで、この記念碑的なツアーの多角的な記録として、現在も多くのファンに親しまれている。彼の豊かなキャリアの中でも、特にポピュラーアイコンとしての地位を確立した時期を捉えた、重要な作品群の一つと言えるだろう。

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