シリアル・ママ

シリアル・ママ

『シリアル・ママ』（原題：Serial Mom）は、1994年にアメリカで公開されたブラック・コメディ映画です。特異な世界観で知られるジョン・ウォーターズが監督・脚本を手がけました。

ストーリー

物語の舞台はメリーランド州ボルチモア。

主人公は、歯科医の夫と二人の子供を持つ絵に描いたような専業主婦、ビヴァリー・サトフィン。彼女は常に身なりを整え、近所付き合いも良好で、まさに完璧な母親像を体現しています。しかし、その完璧さの裏には、家族や社会の秩序を乱す存在、あるいは些細なルールすら守らない人々に対する異常なまでの敵意が隠されていました。

ビヴァリーにとって、無許可の自動車運転、ポイ捨て、はたまたレンタルビデオを巻き戻さずに返却することまで、すべてが許しがたい罪なのです。彼女は、これらの「ルール破り」を見つけるや否や、持ち前の主婦力が生み出す想像もつかない方法で、標的を次々と排除していきます。

例えば、息子のホラー映画好きを問題視した教師には容赦ない制裁を下し、娘を振って別の相手に乗り換えたボーイフレンドには鉄の制裁が待っていました。さらには、レンタルビデオ店でビデオを巻き戻さずに返却する常連客にも、悲劇的な結末が訪れます。警察の捜査が始まる中、ビヴァリーはあくまで「良き母」「良き市民」として振る舞い続け、自身の犯行を巧妙に隠蔽しようとします。果たして、彼女の歪んだ正義はどこまで暴走するのでしょうか。

キャスト

本作には個性的な俳優陣が集結しました。主演のビヴァリー・サトフィンを演じるのは、コメディからシリアスまで幅広い役柄をこなすキャスリーン・ターナー。表面的な淑やかさと内面に秘めた狂気を巧みに演じ分けています。夫のユージーン・サトフィン役にはサム・ウォーターストン、娘のミスティ役にはリッキー・レイク、息子のチップ役にはマシュー・リラードが配されました。彼らは、突然シリアルキラーとなった母親に振り回される家族を演じます。

近年、日本語吹替版が新たに制作され、ビヴァリー役を本田貴子、ユージーン役を菊池正美、ミスティ役をれいみ、チップ役を土屋神葉がそれぞれ担当しています。

作品の特徴

『シリアル・ママ』は、ジョン・ウォーターズらしい不謹慎で過激なブラック・コメディの真骨頂ともいえる作品です。ごく平凡な郊外の日常に潜む狂気と暴力、そしてそれを「正義」と信じて疑わない主人公の姿を通して、社会の規範や道徳観を痛烈に風刺しています。殺人の描写さえもユーモラスに描かれ、観客を笑いと背筋の凍るような感覚の狭間に引き込みます。

タイトルについて

映画のタイトルにある「シリアル」は、朝食に食べる穀物食品を指す「Cereal」ではなく、連続殺人を意味する「Serial killer」から来ています。ただし、劇中では、息子から「ママはシリアルキラーなの？」と問われたビヴァリーが、「私が知っているシリアルはライスクリスピーだけよ」ととぼけるジョークのやり取りがあります。これは、英語でも日本語でも発音が同じであることを利用した言葉遊びであり、本作のブラックユーモアを象徴する一幕と言えるでしょう。

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