ジョン・ウォーターズ

ジョン・ウォーターズ：悪趣味の帝王とその軌跡

ジョン・ウォーターズは、アメリカン・ニューシネマ期以降の映画界に独特の足跡を残した映画監督、脚本家です。1946年、メリーランド州ボルチモアに生まれ、敬虔なカトリック家庭で育ちましたが、ゲイであることを公表し、10代から問題児として知られていました。自作の車庫をお化け屋敷に改造するなど、型破りな行動が目立ちました。

17歳で祖母からプレゼントされた8ミリカメラがきっかけで映画製作を始めます。ニューヨーク大学の映画学科に進学するも、マリファナ所持で退学処分となりボルチモアに戻ります。

帰郷後、彼は「ドリームランダース」と呼ばれる仲間たちと自主制作映画を制作し始めます。1964年の『黒の革ジャケットの女』を皮切りに、低予算ながらも過激で下品なコメディ作品を世に送り出していきます。1970年、女装の怪優ディヴァインを主演に迎えた『モンド・トラッショ』がカルト的な人気を獲得し、彼の名を広く知らしめることとなります。続く『マルチプル・マニアックス』（1970年）、そして特に『ピンク・フラミンゴ』（1972年）の大成功は、カルトムービーブームの火付け役となりました。これらの作品は、常識を覆すような過激な描写と、ブラックユーモアにあふれた独特の作風が特徴です。

1981年の『ポリエステル』から劇場用映画に進出すると、彼の作風は変化を見せます。『ヘアスプレー』（1988年）や『クライ・ベイビー』（1990年）では、過去を舞台にした比較的穏やかな作品に挑戦し、一般の映画ファン層からも支持を得ます。しかし、1994年の『シリアル・ママ』以降は、再び過激な作風へと回帰します。1998年の『I love ペッカー』は、自伝的な要素を多分に含んだ作品となっています。また、『セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ』（2000年）では、アート映画愛好家であるウォーターズ自身の視点から、当時のハリウッド映画界への痛烈な批判を込めた作品を発表しています。

ウォーターズは、映画製作のみならず、作家としても活躍しています。彼の著書では、裁判傍聴や殺人犯の絵画収集といった独特の趣味が紹介されており、その異様な嗜好は多くのフォロワーを生み出しました。メリーランド州の刑務所では囚人たちに映画製作について講義を行い、自作の上映会を開催したこともありました。

彼は自身の趣味としてアート映画好きを公言しており、ウディ・アレン、イングマール・ベルイマン、ピエル・パオロ・パゾリーニといった巨匠の作品や、マルグリット・デュラス、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーといった芸術家を高く評価しています。ファンレターはボルチモアにあるAtomic Booksという書店を通じて送ることができるものの、ウォーターズ本人が定期的に書店に立ち寄り受け取るシステムのため、確実に届くとは限りません。

2015年にはロードアイランド・スクール・オブ・デザインで行った卒業スピーチが全米で話題となり、その全文を収録した『Make Trouble』（邦題：『厄介者のススメ　ジョン・ウォーターズの贈る言葉』）が2017年に刊行されました。

映画監督、脚本家、作家として多岐に渡り活躍するジョン・ウォーターズ。彼の作品は、その過激さゆえに賛否両論あるものの、常に映画界に刺激を与え続け、独自の地位を確立していると言えるでしょう。彼の悪趣味と呼ぶべき独特の世界観は、今後も多くの映画ファンを魅了し続けることでしょう。

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