ジェットコースター (後楽園ゆうえんち)

かつて後楽園に存在した伝説のアトラクション「ジェットコースター」

「ジェットコースター」という言葉は、今日では日本中の多くの遊園地にあるスリリングな乗り物を指す一般的な名称として定着しています。しかし、この言葉が生まれた場所、そしてその名の由来となった特定のアトラクションが存在したことをご存知でしょうか。それは、かつて東京・後楽園ゆうえんち（現在の東京ドームシティアトラクションズ）に設置されていた、日本で最初の本格的なローラーコースターでした。

この記念すべきアトラクションは、1955年（昭和30年）7月9日、後楽園ゆうえんちの開園と同時にその姿を現しました。全長550メートル、最高部15メートル、最高速度時速50キロメートルというスペックは、現代の巨大なコースターと比べれば控えめかもしれませんが、当時の日本においてはまさに画期的な存在でした。後楽園球場に隣接する土地に建設され、その登場は多くの人々の注目を集めました。

この「ジェットコースター」というユニークな名称は、後楽園ゆうえんちが独自に考案したものです。空を速く飛ぶジェット機のような加速感や疾走感を表現しようという意図が込められており、「ジェット機のように加速して、空を飛び回る感覚」から名付けられました。この斬新なネーミングは人々の想像力を掻き立て、アトラクションの人気を一層高めることとなりました。そして、このアトラクションが開業した7月9日は、後に「ジェットコースターの日」として制定されることになります。

では、なぜ後楽園ゆうえんちはローラーコースターの導入を決めたのでしょうか。後楽園ゆうえんちの開設にあたり、運営会社である株式会社後楽園スタヂアム（現在の株式会社東京ドーム）は、他にない画期的な「目玉」となるアトラクションを模索していました。その中で注目されたのが、当時アメリカをはじめとする海外で人気を集め始めていたローラーコースターです。ローラーコースターは、複雑なレールを列車が駆け巡る立体的な構造を持っているため、都心という限られた狭い土地を効率的に利用できるという利点がありました。

しかし、当時の日本では海外からローラーコースターを容易に輸入することはできませんでした。そこで、国内での独自開発という困難な道が選ばれます。このプロジェクトを担ったのは、建設会社である明和工務店に所属していた、かつて旧川西航空機で戦闘機「紫電改」の開発に携わった技術者たちを中心としたチームでした。驚くべきことに、この開発チームのメンバーは、誰も実際にローラーコースターに乗ったり、近くで見たりした経験がありませんでした。彼らは、入手できたわずかな映像資料だけを頼りに、未知のアトラクションの設計に挑んだのです。

開発チームは、単に海外の模倣をするのではなく、当時の日本の状況に合わせた配慮も行いました。当時の日本では、ローラーコースターのような高速で激しい動きをする遊具はほとんど存在せず、人々はその感覚に慣れていませんでした。そのため、あまりの速さや落差に驚いて失神してしまう人が出ることを懸念し、アメリカなどにあったローラーコースターよりも速度や高さを意図的に控えめに設計しました。また、こうした特殊な構造物に対する建設許可基準がなかったため、安全性を確保するためには専門家によるチェックや査定を独自に依頼し、徹底した安全対策を講じた上で建設・運営が行われました。

後楽園ゆうえんちの「ジェットコースター」は、その革新性とスリル、そして「ジェットコースター」という印象的な名前によって、開業以来絶大な人気を博しました。そして、その人気と知名度の高まりとともに、「ジェットコースター」という名称は、後楽園ゆうえんちの特定のアトラクションを指す固有名詞から、日本国内で稼働するローラーコースター全体を指す一般的な言葉へと変化していきました。まさに、日本の遊園地文化におけるローラーコースターの代名詞を創り出した存在だったと言えます。

しかし、その栄光の歴史は永遠に続いたわけではありませんでした。1967年（昭和42年）、都市計画における放射9号線の道路拡張工事が決定し、後楽園ゆうえんちの一部敷地がその対象となりました。これに伴い、残念ながら「ジェットコースター」は営業を終了し、その姿を消すことになったのです。

「ジェットコースター」の撤去後、後楽園ゆうえんちは翌1968年（昭和43年）にリニューアルオープンし、その際に新たなローラーコースター「ジャイアンツコースター」が登場しました。これは、姿を消した初代「ジェットコースター」の精神を受け継ぐ存在となりました。初代「ジェットコースター」が設置されていた場所は、一部が道路用地となったほか、1973年（昭和48年）には「パラシュートランド」という新しいエリアが開設され、現在は「パラシュートゾーン」として利用されています。

後楽園ゆうえんちの初代「ジェットコースター」は、短い期間の運行でしたが、日本にローラーコースター文化を根付かせ、「ジェットコースター」という言葉を国民的なものにした、日本の遊園地史において非常に重要な役割を果たした伝説的なアトラクションでした。その名前は、今もなお日本のスリルライドの代名詞として生き続けています。

もう一度検索