ジェニーの肖像

『ジェニーの肖像』（Portrait of Jennie）

『ジェニーの肖像』は、アメリカの作家ロバート・ネイサンが1939年に発表した幻想的な小説です。原題は『Portrait of Jennie』といい、その文学的な評価の高さから、1948年には同名のタイトルで映画化もされました。日本語においては、『ジェニイの肖像』や『ジェニィの肖像』といった表記が用いられることもあります。

物語の舞台は、1930年代頃のニューヨーク。どん底をさまよう貧しい画家、イーベン・アダムスが主人公です。創作への情熱は持ちながらも、まるで認められることのない彼の人生は閉塞感に満ちていました。そんなある日、彼はニューヨークのセントラル・パークで、まるで時代から取り残されたような古い衣装をまとった不思議な少女と出会います。少女は自分をジェニーと名乗り、アダムスに様々な詩の一節を聞かせます。

ジェニーとの出会いは、アダムスの芸術に新たな光をもたらします。彼はジェニーをモデルに絵を描き始めますが、彼女は会うたびに驚くべき速さで成長しているように見えるのです。初めて会った時は幼い少女だったジェニーが、次に会った時には少し大人びた顔つきになり、さらに会う時にはすでに美しい女性へと変化しています。この現実離れした彼女の存在は、アダムスに困惑と同時に強い芸術的なインスピレーションを与えました。ジェニーを描いた彼の絵は、やがて周囲から高い評価を得るようになり、アダムスは画家として成功への道を歩み始めます。

しかし、ジェニーの時間だけが、通常とは異なる速さで流れているかのようです。再会を重ねるごとに、彼女は過去のある時点から未来へ向かって、急速に年を重ねていることが示唆されます。彼女の存在はアダムスの人生に希望と成功をもたらしますが、同時に彼を抗いがたい運命へと引きずり込んでいきます。芸術と、時を超えた神秘的な愛が織りなす、哀しくも美しい物語が紡がれていきます。

この小説は発表後、多くの読者を魅了し、1948年には映画化されました。映画版もまた、幻想的で詩的な雰囲気をよく捉えた作品として評価されています。特に、視覚的な表現や音楽が、原作の持つ非現実的な美しさを際立たせています。映画批評家からの評価も概ね高く、ある評価集計サイトでは肯定的なレビューが8割を超えています。

日本においても、本作は長年にわたり多くの読者に親しまれてきました。山室静氏や井上一夫氏、大西尹明氏、大友香奈子氏（新訳版）といった複数の訳者によって日本語に翻訳され、様々な出版社から刊行されてきた歴史が、その人気の根強さを示しています。文庫版や児童向けの版、愛蔵版など、多様な形態で出版されてきました。

また、『ジェニーの肖像』は、文学や映画の枠を超え、他の芸術分野にも影響を与えています。例えば、ジャズの世界では、クリフォード・ブラウンや岸ミツアキといったミュージシャンによって、同名の楽曲が演奏・録音されています。これらの音楽作品は、時に本作の持つロマンティックでどこか儚い雰囲気を感じさせます。

小説、そして映画版ともに、時を超えた愛と、芸術家の創造性、そして運命の神秘を深く描いた作品として、今日でも多くの人々に愛され続けています。貧しい画家と不思議なジェニーとの出会いが、いかにして彼の人生と芸術を変え、そしてどのような結末を迎えるのかは、読者や観客それぞれに深く問いかけるテーマを提示しています。

もう一度検索