ジェリー・フォーダー

ジェリー・アラン・フォーダー：心の哲学と認知科学の先駆者

ジェリー・アラン・フォーダー（Jerry Alan Fodor, 1935年 - 2017年）は、アメリカを代表する哲学者、認知科学者でした。ラトガーズ大学で教鞭を執り、心の哲学と認知科学の分野に多大な影響を与えました。彼の研究は、心のモジュール性や思考の言語仮説といった、認知科学の根幹をなす概念を提唱したことで知られています。

心的状態と思考の言語

フォーダーは、信念や欲求といった心的状態を、個体と心的表象との関係として捉えました。彼は、これらの心的表象が、心の中で思考の言語（Language of Thought: LOT）によって表現されると考えました。さらに、この思考言語は、単なる説明の道具ではなく、脳内で実際に体系化されて存在すると主張しました。思考と言語を含む心のプロセスは、表象の文法に基づいた計算によって生じると考え、機能主義的な立場を取りました。

心のモジュール性と中央処理

フォーダーは、心を知覚や言語処理といった独立した機能的な役割を持つモジュール（器官）の集合体として捉えました。これらのモジュールは、互いに比較的独立して機能し、特定の領域に特化していると考えました。モジュールが外部の対象との因果関係を確立することで、心的状態が世界の事象に関係する内容を持つことが可能になると説明しました。一方、中央の処理部分は、モジュールからの入力を統合し、論理的な関係を処理する役割を担います。

意味論と指示の理論

フォーダーは、心的状態が外部の事象によって因果的に決定されるという考えに当初は否定的でしたが、晩年は、意味と指示の問題に取り組みました。彼は、非対称的な指示の因果説を提唱し、クワインらが主張する意味の全体論を批判しました。また、心の還元主義的な説明には強く反対し、心的状態が多重実現可能であること、心理学や言語学といった高次の理論は、ニューロンやシナプスの活動といった低次の説明では捉えられないと主張しました。

生涯と業績

ニューヨークで生まれ育ったフォーダーは、コロンビア大学とプリンストン大学で学びました。マサチューセッツ工科大学、ニューヨーク市立大学を経て、ラトガーズ大学で教鞭を執りました。哲学だけでなく、オペラにも造詣が深く、評論も執筆していました。

ラトガーズ大学では、新神秘主義の哲学者コリン・マッギンと親交がありました。マッギンは、フォーダーを「無骨で大柄の体の中にやさしさを持った男」と評し、その議論の鋭さと知性を高く評価していました。

フォーダーは、ファイベータカッパやアメリカ芸術科学アカデミーのメンバーであり、数多くの賞を受賞しました。

心的状態の本性

著書『命題的態度』（1978年）において、心的状態を個体と心的表象との関係として捉えるという、彼の思想の中核となる考え方が示されました。フォーダーは、心的状態の関係的な本質を説明するためには、思考の言語における文のような心的表象が必要だと主張しました。彼は、心的状態を二項関係として捉えるカルナップやフレーゲの見解を批判し、個体、表象、命題的内容の三項関係を用いることが適切だと論じました。

心の機能的構造

ノーム・チョムスキーの言語学研究に影響を受けたフォーダーは、生得論的な立場を強く支持しました。彼は、多くの認知機能や構想が先天的なものであると考え、行動主義や連合主義を批判しました。その批判から、心のモジュール性を定式化しました。

フォーダーは、心のモジュール性について、情報の被包性と領域特異性という2つの重要な特徴を挙げました。これらの特徴によって、心的内容の原子論的な原因の説明が可能になると論じました。しかし、フォーダーのモジュール性の考えは、認知科学者や進化心理学者によって様々な解釈がなされ、彼は、本来の意図から外れた使い方をされていると不満を表明していました。

志向性の実在論

『内容の理論とその他の試論』（1990年）では、心的表象の実在性の問題を取り上げました。フォーダーは、思考の言語のように象徴的構造によって説明されるという考えを正当化することで、精神状態の内容も正当化する必要があると主張しました。

批判と影響

フォーダーの思想は、多くの哲学者や認知科学者から批判を受けてきました。思考の言語仮説は、無限退行に陥る、あるいは無用の長物であると批判されました。また、彼の先天説や語彙意味論に対する批判も、議論を呼んでいます。

しかし、フォーダーの業績は、心の哲学と認知科学の分野に多大な影響を与え続けています。彼の提唱した概念や理論は、現代の認知科学研究においても重要な ভিত্তিとなっています。

主要著作

『心のモジュール性』（1983年）
『心理意味論』（1987年）
『内容の理論とその他の試論』（1990年）
『ダーウィンはなぜ間違えたか』（2010年）（マッシモ・ピアッテッリ＝パルマリーニとの共著）

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