ジェローム・カイノ

ジェローム・カイノ（Jerome Kaino）は、1983年 4月6日にアメリカ領サモアのトゥトゥイラ島で生まれた、ラグビーユニオンの元選手である。現役時代の身長は196センチメートル、体重は109キログラムを測り、主にフランカー（FL）やナンバーエイト（No.8）といったバックローのポジションでプレーした。その恵まれた体格と、ポジションに似合わぬ運動能力で知られたプレイヤーであった。

彼のラグビーキャリアは、ニュージーランドの名門校であるセント・ケンティガン・カレッジで形成された。高校時代には、後のオールブラックスでも共にプレーするジョー・ロコココやジョン・アフォアといった才能あふれる選手たちとチームメイトであった。カレッジ在学中からその才能は際立っており、2001年には高校生ニュージーランド代表に選出されている。卒業後はオークランド大学に進学し、ここでもラグビーを続けた。大学時代には各年代のニュージーランド代表に名を連ね、2002年には19歳以下代表、そして2003年と2004年には2年連続で21歳以下代表に選ばれた。特に2004年は、IRB（現ワールドラグビー）によるUnder 21 Player of the Year、そしてニュージーランドラグビー協会（NZRU）のAge Grade Player of the Yearという、ユースレベルにおける最高の個人賞をダブル受賞するなど、その世代のトッププレイヤーとしての評価を不動のものとした。カイノのキャリアにおける特筆すべき点の一つは、19歳頃までバックス（センターやフルバック）としてプレーしていたにも関わらず、その後フォワードに転向し、世界レベルのバックローとして成功を収めたことである。バックスでの経験は、彼のフォワードとしては異例の優れたランニングスキルやボールハンドリングに繋がったと言える。

シニアレベルでのキャリアは、2004年にニュージーランド国内最高峰の州代表選手権（当時NZNPC）にて、オークランド州代表としてスタートした。同年、ポヴァティ・ベイとの試合で州代表デビューを飾る。さらに同年、南半球の有力チームが集うスーパーラグビー（当時スーパー14）に、ニュージーランドを代表するチームの一つであるブルースの一員として加入。レッズ戦でスーパーラグビーでの初出場を果たした。また、この2004年には、正式なオールブラックスのメンバーではなかったものの、非招集選手としてバーバリアンズ戦に出場する機会を得て、これが彼のオールブラックスとしてのグラウンドデビューとなったが、国際キャップはカウントされなかった。

その後も彼の成長は続き、2005年にはセブンスニュージーランド代表に、そしてジュニアオールブラックスにも選ばれた。そして、多くのラグビー選手にとっての究極の目標であるフル代表、オールブラックスへの選出は2006年に実現した。同年6月10日に行われたアイルランド代表とのテストマッチで、国際キャップ対象試合におけるオールブラックスデビューを果たし、以降、ニュージーランド代表のバックローとして欠かせない存在となった。

カイノのプレースタイルは、その強力なフィジカルと献身的なディフェンス、そしてダイナミックなボールキャリーに特徴があった。特に注目すべきは、前述したバックス経験に裏打ちされた優れた運動能力であり、例えば2004年のオークランド州代表チームでは、バックスの選手たちよりもスプリント走が速かったというエピソードが残されている。また、バックローを主戦場としながらも、チーム事情によっては異なるポジションもこなせる柔軟性も持ち合わせていた。実際、2010年7月のブレディスローカップ、オーストラリア代表戦ではロックとしてプレーし、その適応能力の高さを示した。こうした多才さは、彼がチームの戦術においていかに重要な駒であったかを物語っている。

ニュージーランド国内のブルース、そして国際舞台ではオールブラックスの中心選手として長年にわたり活躍を続け、数々の栄光を掴んだ後、ジェローム・カイノは2020年シーズン限りでの現役引退を発表し、プロ選手としてのキャリアに終止符を打った。強靭なフィジカルと優れたスキル、そしてピッチ上でのリーダーシップを持ってチームを牽引した彼は、世界のラグビーファンに強い印象を残した名選手である。

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