ジェームズ・ケーヒル

ジェームズ・フランシス・ケーヒル：中国美術史研究の巨匠

ジェームズ・フランシス・ケーヒル (1926年8月13日 - 2014年2月14日) は、アメリカ合衆国を代表する中国美術史家、キュレーター、そして美術コレクターとして知られています。中国名、高居翰(こう きょかん)の名で親しまれ、中国美術研究において世界的な権威として広く認められています。

ケーヒルの生い立ちと教育

ケーヒルはカリフォルニア州フォートブラッグで生まれました。幼少期は両親の離婚により、様々な親戚や友人宅を転々としながら過ごしました。バークレー高校時代には文学と音楽への関心を深め、1943年にカリフォルニア大学バークレー校に入学。当初は英語を専攻していましたが、第二次世界大戦の勃発を受け日本語の学習を始め、アメリカ陸軍に徴兵。1946年から1948年にかけては日本と朝鮮半島で通訳として勤務しました。この東アジア滞在が、彼の人生を大きく変え、絵画収集への興味を掻き立てることとなります。1948年に大学に戻り、1950年に東洋言語の学士号を取得。その後、ミシガン大学大学院に進学し、マックス・レーヤー教授の下で美術史を学び、1952年に修士号、1958年には博士号を取得しました。1954年から1955年にはフルブライト・プログラムにより京都大学に留学し、東アジア美術史を研究。ストックホルムの美術史家オズワルド・シレンのもとで研鑽を積むなど、着実にその経歴を築き上げていきました。

華々しいキャリアと学術的貢献

大学院修了後、ケーヒルはワシントンD.C.のフリーア美術館で中国美術のキュレーターとしてキャリアをスタートさせました。1965年にはカリフォルニア大学バークレー校の教員となり、1995年の定年退職まで同大学で教鞭をとり、その後は名誉教授に就任。1950年代から1970年代にかけて、西洋社会における中国美術への関心が低迷していた時代において、ケーヒルは中国絵画の研究と分類に尽力した数少ない研究者の1人でした。

彼の1960年代に出版された著書『Chinese Painting』(中国絵画)は、その後数十年に渡り、中国美術史研究者や学生にとって必読書となりました。1972年、ニクソン大統領の訪中後には、アメリカ人美術史家として初めて中国を訪問。また、1960年代の中国美術シンポジウムでは「明代の著名な画家は西洋美術の影響を受けている」という当時としては画期的な説を提唱し、中国学界から激しい批判を受けながらも、後に広く受け入れられるようになりました。

ケーヒルの研究活動は、時に大きな議論を巻き起こすことでも知られています。1990年代、中国系アメリカ人金融家のオスカー・タンが、10世紀の中国画家董源の作品とされる『渓岸図』をメトロポリタン美術館に寄贈した際、ケーヒルはそれが20世紀の画家であり贋作家としても知られる張大千による贋作であると主張しました。この主張は美術史界に大きな論争を巻き起こし、現在もなお決着を見ていません。ケーヒルは筆法や印章の特徴から宋代の画風ではないと反論しましたが、メトロポリタン美術館側は本物であると主張し、展示は継続されています。

ケーヒルは中国と日本の美術に関する多くの論文や著書を発表し、熱心なコレクターとしても知られています。収集した中国・日本の美術品は多くがバークレー美術館に寄贈されました。「景元斎」という雅号も使用していました。2010年には、美術史への生涯にわたる貢献を称えられ、スミソニアン博物館からチャールズ・ラング・フリーア・メダルが授与されました。

私生活と業績

ケーヒルは2度の結婚と離婚を経験し、最初の結婚で1男1女、2度目の結婚で2人の息子をもうけました。娘のサラ・ケーヒルはピアニストとして活躍しています。6人の孫に恵まれました。2014年2月14日、前立腺癌のため87歳で亡くなりました。

ケーヒルの功績は、中国美術史研究に多大な影響を与え続け、彼の研究はこれからも多くの研究者や愛好家によって引き継がれていくことでしょう。彼の残した膨大な研究成果は、現代の中国美術研究の礎となっています。彼の業績は、単なる学術的貢献にとどまらず、東西文化交流の架け橋としての役割を果たしたともいえるでしょう。

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