ジグミ・ドルジ・ワンチュク

ジグミ・ドルジ・ワンチュク：近代ブータンの礎を築いた国王

ジグミ・ドルジ・ワンチュク（1929年 - 1972年）は、ブータン王国の第3代国王であり、その20年にわたる治世は、ブータンを近代国家として国際社会に登場させた変革の時代でした。彼は、従来の鎖国政策を放棄し、政治的統一、宗教的・社会的基盤の強化、経済発展など、多岐にわたる改革を断行しました。これらの功績から、「近代ブータンの父」として国民から深く敬愛されています。

生い立ちと即位

1929年、ジグミ・ドルジ・ワンチュクは、トンサのテュパン宮殿で誕生しました。15歳でトンサ・デニェに任命され、その後、イギリスに留学しました。帰国後、17歳でパロ・ペンロプに任命され、1952年にジグミ・パルデン・ドルジ首相の妹、アシ・ケサン・チョデンと結婚しました。同年、父の死去に伴い、第3代ブータン国王として即位しました。

政治・社会改革

ジグミ・ドルジ・ワンチュクは、内政において大胆な改革を推し進めました。個人の土地所有を制限し、余剰分を国民に分配する一方で、土地収入税を廃止しました。また、農奴制と死刑制を廃止し、最高法院を設置することで、行政から司法を分離しました。これらの改革は、ブータン社会の近代化に大きく貢献しました。

1964年から1965年にかけては、国内政治が混乱しました。1964年4月にはドルジ首相が暗殺され、首相職が一時空席となりました。その後、1968年には首相職自体が廃止され、国王が首相の役割を担う体制が確立されました。これらの混乱は、国王が推進する急進的な改革に対する保守派の不満が原因であったと考えられています。1964年12月には反体制派によるクーデター未遂事件、1965年7月には国王の暗殺未遂事件が発生しました。この混乱の背景には、国王の愛人であったチベット人女性、ヤンキの存在も指摘されていますが、詳しい経緯は不明です。

立憲君主制への道

ジグミ・ドルジ・ワンチュクが実施した憲法改革は、以下の3つの柱から構成されています。

国民議会の設置: 1953年に設置された国民議会は、ブータンが立憲君主制へと移行する上で重要な役割を果たしました。
王立諮問委員会の設置: 1965年に設置された王立諮問委員会は、行政を監視する独立機関として機能しました。
* 国王権力の制限: 国王は憲法の下で国家元首、軍総司令官、最高控訴院裁判官の地位を保持しつつも、宗教的支配者の職務を廃止し、国民議会における拒否権を自ら放棄するなど、権力の分散化を図りました。

さらに、1968年5月には、将来的にブータンが立憲君主制となるべきであること、3年ごとに国王の信任投票を実施すること、不信任案が全議員の3分の2以上で可決された場合には王太子に譲位することを宣言しました。

経済発展と国際社会への参加

ジグミ・ドルジ・ワンチュクは、社会・政治の安定と共に経済発展も重視しました。1961年には五ヵ年計画が策定され、インドの経済協力によりブータンの経済発展が促進されました。1958年にインドのネルー首相がブータンを訪問した際、経済協力が約束され、インド計画委員会により第一次五ヵ年計画が策定されました。

外交面では、1962年のコロンボ計画への参加を皮切りに、国際社会への参加を積極的に進めました。1970年にはインドの後押しを受け、国際連合加盟を申請し、1971年7月21日に正式に国際連合への加盟が承認されました。

文化・伝統の保護

一方で、ジグミ・ドルジ・ワンチュクはブータン古来の伝統文化を尊重し、ゾンカ語を国語に制定しました。また、パロに国立博物館、ティンプーに国立図書館・国立公文書館を建設し、ブータンの伝統的建築様式を尊重した国民議会会館、最高法院、国立競技場、国立開発本部などを建設しました。首都ティンプーの整備にも尽力しました。

崩御

1972年、心臓病の静養のためケニアのナイロビに滞在していたジグミ・ドルジ・ワンチュクは、滞在中に心臓発作により崩御しました。彼の崩御はブータン国民にとって大きな悲しみでした。

人物像

ジグミ・ドルジ・ワンチュクは、プライベートでは狩猟を好んだとされています。心臓病療養のためにナイロビを選んだのも、狩猟ができる場所であったことが理由の一つであったと言われています。

ジグミ・ドルジ・ワンチュクの治世は、ブータンが近代国家として飛躍するための重要な転換期でした。彼のリーダーシップと改革への情熱は、今日のブータンの発展の礎となっています。

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