ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像

レオナルド・ダ・ヴィンチの肖像画『ジネーヴラ・デ・ベンチ』

『ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像』は、ルネサンス期の巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチが1474年から1478年頃に描いたとされる肖像画です。この作品は、15世紀のフィレンツェ貴族、ジネーヴラ・デ・ベンチ（1458年頃生）をモデルとしており、彼女の肖像は現在、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されています。この絵画は、その購入額が当時の最高額となる500万ドルに達したことでも知られており、アメリカ大陸で一般公開されている唯一のレオナルドの作品として、非常に重要な位置を占めています。

制作の背景

この肖像画は、1474年にジネーヴラがルイージ・ディ・ベルナルド・ニッコリーニと結婚した際の記念として制作されたと考えられています。しかし、美術史家ジョルジョ・ヴァザーリの著作には、彼女がフィレンツェ貴族アメリゴ・デ・ベンチの娘であるとは明記されておらず、単にルイージ・ディ・ベルナルド・ニッコリーニの妻としてのみ記録されています。彼女の結婚は1474年1月14日に行われました。

肖像画の裏面には、作品の主題に関する絵と碑文が記されており、これがジネーヴラ・デ・ベンチを描いたものであることを示唆しています。また、ラテン語のモットー「VIRTVTEM FORMA DECORAT（美は徳を飾る）」が記されており、これはジネーヴラの知性と有徳さを象徴しています。月桂樹と椰子に囲まれたセイヨウネズの小枝は、彼女の名前「Ginevra」を暗示しています。これらの象徴的な要素は、ヴェネツィアの駐フィレンツェ大使であったピエトロ・ベンボのエンブレムにも関連しており、彼とジネーヴラの間に交流があったこと、そして彼が夫妻に贈った詩歌が存在することからも、この肖像画の裏面の象徴的なイメージがベンボの依頼によって描かれた可能性も指摘されています。

作品の評価と特徴

ナショナル・ギャラリー・オブ・アートのコレクションの中でも最も重要な作品の一つであるこの肖像画は、ジネーヴラの気質まで表現されていると高く評価されています。彼女は美しく描かれていますが、その表情は厳しく引き締まっており、微笑みは浮かべていません。視線は鑑賞者には向けられず、超然とした雰囲気を醸し出しています。

作品の下部が切断されているため、彼女の両腕は失われていますが、下絵と思われる習作から、オリジナルの姿を推測することができます。

ジネーヴラは、当時のフィレンツェでも有名な美女であり、メディチ家が主催する文芸サークルでもその名を知られていました。クリストーフォロ・ランディーノやアレッサンドロ・ブラケッチ、ロレンツォ・デ・メディチといった人物が彼女を題材とした詩歌を制作しています。

作品の象徴性

肖像画の裏面に記されたモットーと象徴的な要素は、彼女の内面の美しさと高い品格を表しています。月桂樹と椰子は、ベンボのエンブレムであると同時に、知性と栄光の象徴でもあります。セイヨウネズの小枝は、彼女の名前を暗示し、また、永遠の命と不変性を象徴するとも解釈できます。

この肖像画は、単なる肖像画ではなく、モデルとなった女性の美しさ、知性、そして高潔な精神を表現した傑作として、今日でも多くの人々を魅了し続けています。レオナルド・ダ・ヴィンチの卓越した技術と、モデルの内面まで捉えようとする姿勢が、この作品を特別なものにしています。

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