ジャジューカ

ブライアン・ジョーンズ、その名を知らない者でも、ローリング・ストーンズのギタリストとして、ロック史に名を刻んだ人物であることは想像に難くないでしょう。しかし、彼のキャリアは、バンド脱退という形で幕を閉じました。そのわずか数年後、彼は夭折します。彼の短い生涯、そしてその才能は、多くの謎と未発表作品を残しました。

その謎めいた作品群のひとつに、1971年に発表された『ジャジューカ』（原題：Brian Jones Presents the Pipes Of Pan At Joujouka）があります。これは、彼が1968年にモロッコで録音した民族音楽アルバムです。

このアルバムは、単なる民族音楽の記録ではありません。ブライアン・ジョーンズが、モロッコの伝統音楽、特にジュジュカという地域の音楽家たちと出会い、その演奏を録音し、それを独自のセンスで編集、加筆して完成させた作品です。

ジュジュカの音楽は、独特の笛の音色を特徴としています。それは、パンパイプのような、どこか神秘的で、原始的な響きを持っています。そこに、モロッコの伝統的なリズムや歌声が絡み合い、独特の雰囲気を作り出しています。

ブライアン・ジョーンズは、この異国の音楽に強い関心を抱き、自らモロッコに赴き、現地のミュージシャンたちと交流しながらレコーディングを行いました。これは、単なる音楽の収集ではなく、彼自身の音楽探求、そして新たな表現への挑戦だったと言えるでしょう。

アルバムには、「55 - 55」、「戦いの時」、「テイク・ミー・ウィズ・ユー」、「幻惑の瞳」、「コーリング・アウト」、「幻惑の時 (ウィズ・フルート)」など、魅力的な楽曲が収録されています。これらの楽曲のタイトルは、オリジナルのモロッコ語のタイトルを元に、英語で訳されたものも含まれています。

このアルバムのサウンドは、単に民族音楽をそのまま収録したものではありません。ブライアン・ジョーンズは、スタジオで様々な処理を加え、独特のサウンドスケープを作り上げています。それは、彼がローリング・ストーンズで培った、音楽制作に対する高い技術とセンスが活かされた結果です。

しかし、このアルバムは、彼の死後、1971年に発表されました。彼がこのアルバムに込めた思い、そして彼がこの音楽を通して伝えようとしたメッセージは、今もなお、多くのリスナーの心を捉え続けています。

『ジャジューカ』は、ブライアン・ジョーンズの短い生涯の中で、彼が最後に遺した重要な作品のひとつです。彼の才能、そして彼の人間性を、深く感じることができる作品と言えるでしょう。1995年にはCDで再発され、より多くの人々が彼の音楽に触れる機会を得ています。このアルバムは、ロック音楽史における異色の作品として、そしてブライアン・ジョーンズの音楽家としての多様な側面を示す重要な作品として、これからも語り継がれていくことでしょう。

もう一度検索