ジャスモン酸メチル

ジャスモン酸メチル（MeJA）は、植物が持つ揮発性の有機化合物であり、植物の防御機構や成長プロセスにおいて重要な役割を果たしています。1962年にジャスミンの香気成分として発見され、植物ホルモンの一種として認識されています。

ジャスモン酸メチルの生成と作用

MeJAは、ジャスモン酸から酵素反応によって合成されます。植物が生物的（特に食害）または非生物的ストレス（特に損傷）を受けると、損傷部位でジャスモン酸と同時にMeJAが生成されます。生成されたMeJAは、植物の防御シグナルとして機能し、物理的な接触や空気を通じて周囲の植物に拡散することで、未損傷の植物にも防御反応を引き起こします。この作用により、植物は食害などの脅威に対して、集団で防御体制を整えることができます。

植物防御における役割

MeJAは、植物が様々な防御物質を生成するのを促します。具体的には、ファイトアレキシン、ニコチン、プロテイナーゼ阻害剤などが挙げられます。特にプロテイナーゼ阻害剤は、昆虫の消化を妨げ、食害を抑制する効果があります。MeJAは、受容体を介したシグナル伝達経路を通じて、これらの防御物質の遺伝子を活性化します。

成長と発達への影響

MeJAは、植物の成長や発達にも深く関与しています。例えば、ロッジポールパインでは、MeJAは傷害による樹脂道の生成を促進し、昆虫に対する防御力を高めます。また、巻きひげの丸まり、開花、種子や果実の成熟といったプロセスにも関与しており、開花時期、花形態、開花数などにも影響を与えます。MeJAは、エチレン合成酵素の活性を高め、果実の成熟に必要なエチレンの生成を促します。一方で、根においては、MeJAの増加が根の伸長を抑制することも知られています。

がん細胞に対する作用

近年、MeJAはがん細胞に対して選択的な細胞死を誘導することが明らかになってきました。具体的には、がん細胞のミトコンドリアからシトクロムcを放出させ、アポトーシスを引き起こします。興味深いことに、MeJAは正常細胞には影響を与えず、慢性リンパ性白血病（CLL）細胞などの特定の癌細胞に対してのみ細胞死を誘導します。この発見は、MeJAを基盤とした新たな癌治療法の開発につながる可能性を示唆しています。

まとめ

ジャスモン酸メチルは、植物の防御、成長、発達など、多岐にわたる生理機能に関わる重要な化合物です。植物がストレスに対抗するメカニズム、さらには癌治療への応用など、今後の研究によってその可能性がさらに広がるものと期待されています。

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