ジャック・ミラー (生物学者)

ジャック・ミラー

ジャック・ミラー（Jacques Francis Albert Pierre Miller, 1931年4月2日 - ）は、フランス生まれのオーストラリアの著名な生物学者です。彼は、免疫機能における胸腺の重要な役割を発見し、哺乳類の免疫応答を担う主要なリンパ球が、機能的に異なるT細胞とB細胞の二種類に分類されることを世界で初めて同定しました。これらの画期的な発見は、現代免疫学の基礎を築き、その後の医学研究に計り知れない影響を与えました。

ミラー博士は1931年4月2日、フランスのニースに生を受けました。幼少期はスイスや中国の国際都市である上海で過ごしましたが、第二次世界大戦の勃発と日本の中国大陸への進出という激動の中、一家は避難を余儀なくされます。1941年、彼らは遠く離れたオーストラリアへ移住し、ミラー博士はそこで市民権を獲得しました。

オーストラリアでの新たな生活を経て、シドニー大学で生物学を学び卒業しました。その後、研究の道を志し渡英します。ロンドンのチェスター・ビーティ癌研究所では、グロス白血病ウイルスが新生マウスに与える影響に関する研究に取り組み、その優れた研究成果は高く評価され、ロンドン大学から理学の博士号を授与されました。この研究は、彼の後の免疫学研究へと繋がる重要なステップとなりました。

博士号取得後、ミラー博士は自身の研究の中心を胸腺へと移します。1963年以降、ロンドンの国立医学研究所で、この当時、機能がほとんど不明だった胸腺の役割を深く探求しました。彼は数々の実験を通じて、胸腺が単なる痕跡器官ではなく、生体の免疫システム、特に細胞性免疫応答の確立に不可欠な機能を持っていることを劇的に示しました。

1966年、オーストラリアに戻ったミラー博士は、メルボルンにあるウォルター&イライザ・ホール医学研究所に移籍し、そこで彼の免疫学研究はさらに加速しました。胸腺の研究を進める中で、彼は免疫応答に関わるリンパ球に注目しました。そして、胸腺で成熟するリンパ球が細胞性免疫（例えば、病原体に感染した細胞を直接攻撃する）を担う「T細胞」であること、一方、骨髄などで産生され、抗体を作る形質細胞へと分化するリンパ球が液性免疫を担う「B細胞」であることを、決定的な証拠とともに証明したのです。このT細胞とB細胞の概念の確立は、免疫学の分野に革命をもたらし、その後の研究の方向性を大きく変えました。

その卓越した科学的貢献は広く認められ、1970年には英国王立協会のフェローに選出されました。また、世界各国から数多くの権威ある科学賞が彼に贈られています。

主な受賞歴は以下の通りです。

1966年 ガードナー国際賞
1974年 パウル・エールリッヒ&ルートヴィヒ・ダルムシュテッター賞
1992年 クルーニアン・メダル
2001年 コプリ・メダル、センテナリー・メダル勲章
2011年 トムソン・ロイター引用栄誉賞
2018年 日本国際賞
* 2019年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞

ジャック・ミラー博士の胸腺機能とT細胞・B細胞の発見は、免疫学の教科書を書き換えるほどの影響力を持つものでした。彼の研究は、自己免疫疾患、アレルギー、感染症、がんなど、様々な病気のメカニズム解明や新たな治療法開発の基盤となり、人類の健康と福祉の向上に計り知れない貢献を果たしたのです。

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