胸腺

胸腺（Thymus）

胸腺は、体の免疫系において重要な役割を担う一次リンパ器官であり、特にT細胞の分化と成熟に関与しています。この器官は胸腔内に位置し、胸骨の後ろ、心臓の前にあり、心臓の上に乗るように存在しています。胸腺は主に2つの部分から構成されており、これを「胸小葉」と呼びます。また、子牛の胸腺はフランス料理の食材として利用されることがあります。

構造

胸腺は被膜によって保護され、その内部には胸小葉が存在します。この小葉は、外見の違いによって皮質と髄質の2つの部分に分けることができます。特定の染色方法を使うと、皮質は濃く染まり、髄質は薄く染まります。

胸腺内には、以下のようなさまざまな細胞が含まれています：

• - 上皮細胞：ホルモンを分泌する役割を持つ。
• - 胸腺細胞（リンパ球）
• - 大食細胞（マクロファージ）：胸腺内に存在し、不要なリンパ球を食べます。
• - 樹状細胞

胸腺の形成は第3咽頭嚢から始まり、それが下に降りてくる過程で発生します。この原基は初めは上皮細胞のみで構成されていますが、次第にリンパ球の前駆細胞が入り込み、それを押しのけて増殖することで、最終的には網目状の構造が形成されます。成熟した胸腺では、皮質部に大量の未熟なリンパ球が存在しており、髄質部には成熟したリンパ球がみられることが特徴です。

生理的機能

胸腺では、正の選択および負の選択を通して、適切なリンパ球を末梢に送ります。正の選択では、上皮細胞が発現する主要組織適合遺伝子複合体（MHC）とその自己ペプチドに対する親和性の高い胸腺細胞が選ばれていきます。それに対して、自己反応性の細胞は髄質で消去されます。このような選択過程は「教育」と呼ばれ、T細胞は感染細胞を攻撃する役割を担います。先天的な胸腺不全がある場合、感染症にかかりやすくなることが知られています。

感受性・老化

胸腺は様々な要因、特に放射線や副腎皮質ホルモンに対して敏感であり、特に子供の時期においてはT細胞を活発に産生しています。思春期に最も多くのリンパ球が存在し、ピーク時には胸腺は30～40gの重さに達しますが、その後は急速に萎縮し脂肪組織に置き換わっていきます。老化が進むと胸腺の機能も低下し、70歳までにはその構造のほとんどが失われると言われています。興味深いことに、未熟な個体の場合胸腺が重要な役割を果たしますが、成熟した個体では十分なT細胞のプールが形成されるため、胸腺を摘出しても免疫系への影響は少なくなります。

胸腺の血管系

胸腺においては、血管が皮質から髄質の方向へと向かっています。皮質側では細動脈や毛細血管が上皮性の細網細胞に囲まれており、血液-胸腺関門と呼ばれる構造がT細胞の産出を阻害することなく、余分な抗原が侵入するのを防いでいます。

その他の情報

胸腺の近くには重要な神経（横隔神経や反回[[神経]]）が通っています。これらの神経が損傷されると、呼吸に影響を与えたり、嗄声が生じることがあります。また、子供が虐待を受けると胸腺が萎縮することが知られており、これは法医学において被虐待児を識別する手がかりの一つとされています。

胸腺に対する理解の欠如

1950年代西洋医学においては、医師たちがX線によって子供の胸腺を損傷する事例がありました。この時期には、胸腺の機能に対する理解が不足していたことが背景にあります。しかし、現在ではT細胞が胸腺内で成熟することの重要性が確認されており、胸腺の役割の理解が進んでいます。

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