ジャナタ党

ジャナタ党：インド政治史における転換点

インドの独立後、インド国民会議（コングレス）党が長らく政界を支配していました。しかし、1970年代に入ると、国民会議の汚職や、インディラ・ガンディー首相による強権政治への反発から、国民の支持は徐々に低下していきました。地方政党の台頭も、国民会議の優位を揺るがす要因となりました。特に1975年の非常事態宣言は、国民の不信感を決定的に高めました。

こうした状況の中、1977年のローク・サバー（下院）総選挙を目前に、新たな政党が誕生します。それがジャナタ党です。国民会議党内の反インディラ派、ヒンドゥー至上主義を掲げるインド大衆連盟、地方分権主義や社会主義を唱えるローク・ダルといった、多様な勢力が結集して結成されました。それぞれのイデオロギーは異なれど、インディラ・ガンディー政権への反対という共通の目標の下、統一戦線を目指したのです。

選挙では、政党登録が間に合わず「インド・ローク・ダル」の名称で臨んだジャナタ党は、国民会議を破り、295議席を獲得する圧勝を収めました。これはインド初の非国民会議派政権樹立を意味し、モラルジー・デーサーイーが首相に就任しました。しかし、この勝利は長くは続きませんでした。

ジャナタ党は、反国民会議という共通の目標だけで寄せ集められた政党だったため、政権内部には深刻な対立が潜んでいました。それぞれの派閥が自身の主張を優先し、内紛は避けられませんでした。結果、デーサーイー政権は短命に終わり、チョードリー・チャラン・シンが後任首相となりましたが、政権維持は叶わず、1980年の総選挙では壊滅的な敗北を喫し、政党は事実上崩壊しました。

その後、ジャナタ党は分裂し、異なる道を歩むことになります。右派は、デーサーイー政権で外相を務めたアタル・ビハーリー・ヴァージペーイーをリーダーに、ヒンドゥー至上主義を明確に打ち出し、「ヒンドゥトヴァに基づくジャナタ党」として再建されました。これが現在も続くインド人民党（BJP）です。BJPは、ジャナタ党の右派の流れを汲む政党と言えるでしょう。一方、中間派や左派は、国民会議を離党したヴィシュワナート・プラタープ・シンを中心として、ジャナタ・ダル（Janata Dal）を結成しました。両党の名称が似ているのは、共にジャナタ党をルーツとするためです。

ジャナタ党は、短期間の政権運営に終わったものの、インドの政治史において重要な転換点となりました。国民会議の一党支配体制を打破し、多様な勢力が共存する政治へと道を切り開いたのです。また、その後のインド政治に大きな影響を与えたインド人民党とジャナタ・ダルの誕生は、ジャナタ党の遺産と言えるでしょう。ジャナタ党の興亡は、インドの民主主義のダイナミズムと、多様なイデオロギーが共存する複雑さを示す歴史的な事例と言えるでしょう。

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