ヒンドゥトヴァ

ヒンドゥトヴァ：インド・ナショナリズムの核となる概念

ヒンドゥトヴァ（Hindutva）は、ヒンドゥー・ナショナリズムを代表する重要な概念です。1923年、ヴィナーヤク・ダーモーダル・サーヴァルカルが発表したパンフレット『Hindutva: Who Is a Hindu?』で体系的に提示されました。英語では「Hinduness」（ヒンドゥー性）と表現されることもあります。日本語表記には揺れが見られ、「ヒンドゥトゥヴァ」「ヒンドゥトゥワ」「ヒンドゥットゥヴァ」など様々な表記が用いられています。また、ヒンドゥー至上主義と解釈される場合もあります。

ヒンドゥトヴァの主要な概念

ヒンドゥトヴァは、単なる宗教的概念ではなく、政治思想、社会運動、そしてナショナリズムを包含する広範な概念です。その核心には、次のような要素が含まれています。

文化的ナショナリズム: インド固有の文化と歴史を強調し、インドの一体性を訴えます。単なるヒンドゥー教徒のみならず、シク教、仏教、ジャイナ教、アイヤーヴァリなど、インドに起源を持つ宗教も包含する包括的なナショナリズムです。
脱植民地化: ムスリムやキリスト教徒による植民地支配への抵抗という側面を持ちます。インド独自のアイデンティティを取り戻し、植民地時代の影響から解放されることを目指します。
社会正義: カースト制度や不可触民制度といった社会的不平等に反対し、ヒンドゥー社会の改革を目指します。しかし、その実践や解釈には議論のある部分も存在します。
統一民法: 宗教コミュニティ別の民法典を廃止し、統一的な民法典を制定することを目指します。これは、特にムスリムの個人法（シャリーア法）を巡る議論と深く関わっています。インド憲法第44条は統一民法を努力目標として規定していますが、その改正には、ムスリム政党などからの強い反発があります。
ヒンドゥー教徒の権益擁護: 特に、ジャンムー・カシミール州などにおけるヒンドゥー教徒に対する迫害や民族浄化に反対し、彼らの権利と安全を守ることを訴えます。

ヒンドゥトヴァを掲げる団体と政党

ヒンドゥトヴァ思想を掲げる代表的な組織としては、民族義勇団（RSS）が挙げられます。RSSは、インド人民党（BJP）などの多くのヒンドゥー・ナショナリスト政党に影響を与えています。これらの組織は、「サン・パリヴァール」（Sangh Parivar、「諸団体の一家」）と呼ばれ、相互に緊密な連携を取っています。また、シヴ・セーナーも、BJPと選挙協力関係にあります。

批判と議論

ヒンドゥトヴァは、その排他的な側面から、しばしば批判の対象となっています。特に、ムスリムや他の少数派に対する差別や迫害につながる可能性が指摘されています。ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭は、インド社会に深刻な分断をもたらす可能性があり、その影響は国内外に及びます。ヒンドゥトヴァの解釈や実践をめぐる議論は、現在もインド社会において重要な論点となっています。

参考文献

小川忠『ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭』（NTT出版,2000年）
中島岳志『ヒンドゥー・ナショナリズム―印パ緊張の背景』（中公新書ラクレ,2002年）
間永次郎「V・D・サーヴァルカルのヒンドゥトヴァ思想の系譜―その生涯における四つの〈死〉」『宗教研究』第98巻第2輯（日本宗教学会,2024年）

関連項目

インド人民党
民族義勇団
* インドにおけるイスラーム

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