ジャラル・タラバニ

ジャラール・タラバーニー

ジャラール・タラバーニー（アラビア語：جلال طالباني、1933年11月12日 - 2017年10月3日）は、イラクにおける著名なクルド人政治家であり、同国史上初のクルド人大統領として歴史に名を刻みました。クルド愛国同盟（PUK）の創設者であり議長として、長年にわたりクルド民族の権利確立と自治拡大のために奔走した人物です。

タラバーニー氏は1933年、イラク北部スレイマニヤ県の中流家庭に生を受けました。青年期から政治に強い関心を示し、その道を歩み始めます。バグダード大学法学部に在学中には、仲間と共に「クルド学生同盟」を結成するなど、若くして組織活動の才能を見せました。その後、クルド民族運動の中心的存在であったクルド民主党（KDP）に加わり、早くも1951年には党の中央委員に選出されるなど、頭角を現しました。

彼は単なる政治家にとどまらず、クルド民族の武装闘争にも深く関わりました。イラク軍での勤務経験を持つ一方で、1960年代にクルド民主党の指導者ムッラー・ムスタファ・バルザーニーによって率いられたイラク政府に対する反乱、通称クルド・イラク戦争にも参加しています。政治交渉と軍事行動の両面に通じた実践的な経験を積みました。

しかし、運動の方向性を巡る意見の相違などから、1975年にクルド民主党を離脱。シリアを拠点に新たな政治組織「クルド愛国同盟（PUK）」を設立します。PUKはクルド民主党と並ぶ二大政党として発展し、以降、タラバーニー氏はその指導者として、旧サッダーム・フセイン政権による過酷な弾圧に耐えながら、クルド民族主義運動を牽引しました。その粘り強く、時に狡猾とも評される政治・軍事戦略の手腕から、彼は「クルド政界のキツネ」という異名を取り、多くのクルド人からは親しみを込めて「ジャラルおじ」と呼ばれました。

サッダーム政権崩壊後のイラク新体制において、タラバーニー氏は極めて重要な役割を果たします。そして、2005年、彼はクルド人として初めてイラク共和国の大統領に就任するという歴史的偉業を達成しました。これは、長年虐げられてきたクルド民族にとって、大きな誇りであり、イラク国家における彼らの地位を示す象徴的な出来事でした。

政治活動の傍ら、タラバーニー氏は文化的な一面も持っていました。例えば、毛沢東の選集をクルド語に翻訳した経験があることは、彼の幅広い関心と知識を示すエピソードです。また、人道的な信念を持ち、特に死刑制度には反対の立場を取っていました。

晩年は健康問題に見舞われました。2007年には過労と発表された病気によりヨルダンに緊急搬送されるなど、その容体はしばしば注目されました。そして、2017年10月3日、療養先のドイツ・ベルリンにて83歳で死去しました。彼の死は、クルド民族だけでなく、イラク全土に大きな影響を与えました。

ジャラール・タラバーニー氏は、波乱に満ちた生涯を通じて、クルド民族の権利擁護とイラクの民主化に貢献しました。政治、軍事、文化にわたる多才な側面を持ち合わせ、「英雄」と称されるその存在は、クルド民族運動の歴史において、欠くことのできない重要な人物として記憶されています。

もう一度検索