ジャンセニスム

ジャンセニスムについて

ジャンセニスム（Jansénisme）は、17世紀以降に広まり、カトリック教会によって異端とされたキリスト教思想の一つです。この思想の特徴は人間の意志の力を軽視し、人間本性の罪深さを際立たせる点にあります。特に、この思想はネーデルラント出身の神学者コルネリウス・ヤンセン（1585年-1638年）の著作『アウグスティヌス』に強く影響されています。ジャンセニスムは、特にフランスの上流階級の間で支持を受けながらも、その人間観を巡って激しい論争が展開されました。

思想の根底にある理念

ジャンセニスムの中心には、アウグスティヌスの人間理解が存在します。この思想は、人間の原罪の深刻さと神の恩寵の必要性を強調し、予定説の影響を受けています。特に、少数の人間のみが神に救われるとする観点が特徴です。ジャンセニスムの教えでは、人間は生まれつき罪に汚れており、恩寵がなければ善を選ぶことはできないとされています。したがって、聖体拝領は非常に重要な儀式であり、その際の準備と祈りは非常に重視されていました。このため、ジャンセニスムの影響を受けた信徒たちは、聖体の回数を大幅に減少させることとなりました。

歴史的背景

ジャンセニスムの起源は、16世紀のルーヴァン派神学者ミシェル・バイウスにまで遡ると言われています。彼は神の恩寵の絶対的な重要性と人間の無力さを強調しました。バイウスの思想に触発されたイエズス会の神学者たちはこれに反論を行いました。その後、ヤンセンが完成させた『アウグスティヌス』は、彼の死後1640年に発表され、ジャンセニスムという名称が広がることになりました。

ヤンセンの友人であるジャン・デュヴェルジェ・ド・オランヌは、1641年に著作をパリで出版し、フランスの上流社会に影響を与えました。彼は「アベ・ド・サン・シラン」という名で知られ、パリ郊外のポール・ロワヤル修道院の霊的指導者となりました。この修道院は、ジャンセニスムの中心地と化しました。

その後、フランスではジャンセニスムとイエズス会の間の対立が深まっていきました。この中には、ブレーズ・パスカルや擀曲作家のジャン・ラシーヌといった著名な人々もいました。特にパスカルは、1656年にジャンセニスムに対する批判に反論する形で『プロヴァンシアル』を執筆しています。

教会との対立と禁止

ジャンセニスムは、その極端な悲観的人間観や自由意志の制限を巡って激しい論争を引き起こしました。教会の神学者たちは慎重に検討し、1641年にはヤンセンの著作に含まれるいくつかの主張が異端と判断されました。そのため、1653年にはインノケンティウス10世によってジャンセニスムが正式に禁止されました。

18世紀に入ると、元オラトリオ会員のパスキエ・ケネルがジャンセニスムに新たな展開をもたらしました。彼はジャンセニスムをフランス教会の中での教皇の権威からの解放と結びつけて広めました。これにより、再びジャンセニスムとイエズス会との対立が生じます。

フランス国王ルイ14世は、政治的理由からジャンセニスムを弾圧し、ポール・ロワヤル修道院は1710年に閉鎖されました。しかし、ジャンセニスムは他のヨーロッパ諸国と同様に、イエズス会の禁止や追放の影響を受けます。最終的に、1713年にクレメンス11世によってジャンセニスムが特にその教義が誤りであると断定されました。

ジャンセニスムの影響とその後

ジャンセニスムは18世紀には衰退したものの、その思想は20世紀初頭に至るまで、フランス及びヨーロッパ全土のカトリック信徒に影響を与えました。特に、20世紀初頭には教皇ピウス10世が聖体拝領の奨励を行うことで、ジャンセニスムによって教会との関係が疎遠になった信徒へのアプローチが試みられました。これにより、ジャンセニスムの影響下にあった教会との関係の再構築に向けた努力が見られました。

主要なジャンセニスムの論客

• - パスキエ・ケネル
• - アントワーヌ・アルノー
• - アントワーヌ・ルメートル
• - ロベール・アルノー・ダンディー
• - ブレーズ・パスカル
• - ピエール・ニコル

このように、ジャンセニスムはその複雑な思想と歴史を持ちながら、カトリック教会に深い影響を及ぼした思想流派であり、現在も研究の対象とされています。

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