予定説

予定説とは

予定説（英語: Predestination）は、キリスト教の神学における重要な概念の一つで、特にジャン・カルヴァンによって体系化されました。この教義は、神が救済される者と滅びに至る者を、あらかじめ定めているとするものです。この考え方は、神の主権を強調するものであり、人間の自由意志や行いによって救済が決まるという考え方とは対立します。予定説は、神の恩寵が一方的であり、人間の行いによって左右されないという無条件救済の概念を基盤としています。

予定説の核心

予定説の中心的な主張は、個人の救済は、その人の行いや信仰の有無に関わらず、神の意志によって決定されるということです。つまり、どれほど善行を積もうとも、神に選ばれていなければ救済は得られません。反対に、神に選ばれた者は、たとえ罪を犯しても最終的には神に立ち返るとされます。この教義は、人間の全的堕落と、救済における神の主権を強調するものです。

アウグスティヌスと予定説

アウグスティヌスは、人間の堕落と神の恵みの必要性を説きましたが、彼の見解は必ずしもカルヴァン主義的な予定説と完全に一致するわけではありません。アウグスティヌスは、ペラギウス主義への反駁として、救済が神の恩寵によるものであり、人間の行為によって獲得されるものではないと主張しました。しかし、彼の著作「告白」からは、救済を願う祈りが示されており、カルヴァン主義の予定説とは異なる解釈も可能です。

改革派教会内の論争

予定説は、改革派教会内でも論争の的となりました。特に、救済の予定が人間の堕落前なのか後なのかという点で、意見が分かれました。堕落前予定説は、人間の自由意志を否定すると批判されることがあります。また、二重予定説、つまり救済と滅びの両方を神が予定しているとする説も、議論を呼んでいます。カルヴァンは、滅びの選びを強調することはありませんでした。

アルミニウス主義の登場

予定説に反対するアルミニウス主義は、普遍救済説を提唱し、人間の自由意志と神の恵みの協働を主張しました。この思想は、ドルト会議で異端とされましたが、メソジストなど、多くの教派に影響を与えました。メソジストの創始者であるジョン・ウェスレーはアルミニウス主義を受け入れ、カルヴァン主義のジョージ・ホウィットフィールドとの間で論争を引き起こしました。

予定説と資本主義

社会学者マックス・ヴェーバーは、著書「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で、カルヴァン派の予定説が資本主義の発達に貢献したという説を提唱しました。救済されるかどうかが予め決定されているという不安から、人々は自らが選ばれた者であることの証しを求めて、禁欲的に職業に励むようになり、それが資本主義の精神を形成したというのです。

予定説を受け入れない教派

予定説は、キリスト教の全ての教派に受け入れられているわけではありません。カトリック教会や正教会では、この教説は否定されています。カトリック教会はトリエント公会議で予定説を異端として排斥しました。正教会は、エルサレム公会において、予定説を含むカルヴァン主義の教義を否定しました。

まとめ

予定説は、キリスト教の神学において、複雑で議論の多いテーマです。神の主権と人間の自由意志、救済の性質、神の恩寵の働きなど、様々な側面から議論されています。予定説は、単なる神学的な理論にとどまらず、社会や文化、人々の生活にも大きな影響を与えてきました。この教義は、キリスト教の信仰と歴史を理解する上で、重要な鍵となるでしょう。

その他の情報

関連項目: プロテスタント正統主義、プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神、アウグスティヌス、ジャンセニスム、マルティン・ルター、カルヴィニズム、アルミニウス主義、ペラギウス主義、メソジスト、ウエスレアン・アルミニアン神学、カール・バルト、選民、定命 (イスラム教)、カトリシズム（普遍教会主義）、モリナ主義、義認論
小室直樹氏の指摘: 社会学者の小室直樹は、予定説が日本人には理解しにくいと述べており、神が誰を救うか事前に決定しているという考え方は、一部の人々からは受け入れられないと指摘しています。

予定説は、その複雑さと論争の多さにもかかわらず、キリスト教神学の重要な一部をなしています。この概念を深く理解することは、キリスト教の信仰と歴史をより深く理解する上で非常に重要であると言えるでしょう。

もう一度検索