ジャントー (イギリス)

ジャントー：ホイッグ党を支えた中心勢力

17世紀後半から18世紀初頭にかけてのイングランド（後にグレートブリテン）の政治舞台において、重要な役割を果たした政治集団に「ジャントー (The Whig Junto)」が存在しました。ジャントーは、ホイッグ党に所属する有力政治家たちから成る派閥であり、しばしば「領袖団」とも呼ばれています。その活動は、イングランドの政治構造や政策に多大な影響を与えました。

名誉革命後の政治状況とジャントーの誕生

1688年の名誉革命の後、ウィリアム3世とメアリー2世の治世が始まりました。当初はトーリー党とホイッグ党の区別なく、革命に貢献した人物たちが政権の中枢を担っていました。しかし、ウィリアム3世が海外遠征で不在となる期間には、ホイッグ党が議会で政府を批判する動きが強まり、閣僚の辞任が相次ぎました。

この状況を受け、ウィリアム3世はサンダーランド伯の進言に従い、ホイッグ党中心の政権を樹立。1694年、ホイッグ党員が多数を占める新内閣が発足しました。この新内閣の中で、特に影響力を持った4人の政治家が「ジャントー」と呼ばれました。

ジャントーの主要メンバーと政策

ジャントーのメンバーは、常に一定していたわけではありませんでしたが、一般的には以下の4人が挙げられます。

ジョン・サマーズ: 国璽尚書、後に大法官を務めた法学者。
チャールズ・モンタギュー（ハリファックス伯）: 財務府長官、第一大蔵卿。
トマス・ウォートン（ウォートン侯）: 王室会計監査官。
エドワード・ラッセル（オーフォード伯）: 海軍卿。

彼らはそれぞれ重要な官職に就き、イングランドの政治を主導しました。ジャントーの政策は、イングランド銀行の設立、三年議会法（総選挙を3年に一度実施すること、および議会の召集を定めた法律）の成立、出版の自由化など、イギリス政治史に大きな足跡を残しました。また、銀貨の改鋳による経済安定化にも尽力しました。

ジャントーの栄光と衰退

ジャントー政権は、ウィリアム3世暗殺未遂事件への対応などにおいて強権的な姿勢を見せ、ホイッグ党政権を最盛期に導きました。しかし、大同盟戦争終結後、ホイッグ党内部やトーリー党との対立が深まり、ジャントーは保守的な立場へと傾いていきました。

1698年の総選挙でトーリー党が優勢になると、ジャントーは窮地に立たされ、主要メンバーが次々と辞任していきました。フランスとの秘密条約締結をめぐる弾劾裁判も、ジャントーの衰退の一因となりました。

ウィリアム3世の死後、アン女王の即位、そしてトーリー党のゴドルフィンによる中道派政権の成立により、ジャントーは政権から遠ざけられていきました。しかし、スペイン継承戦争下の1706年には、イングランドとスコットランドの合同交渉にジャントーのメンバーが参加するなど、政治への関与を継続しました。

1708年の総選挙でホイッグ党が再び政権を握ると、ジャントーのメンバーも閣僚に復帰しましたが、戦争の長期化による厭戦ムードやアン女王のホイッグ党への不信感から、政権基盤は不安定でした。1710年の総選挙でトーリー党が勝利し、ジャントーは再び野党に転落しました。

ジョージ1世の即位とともにホイッグ党が政権に復帰したものの、ジャントーの主要メンバーは相次いで死去または引退し、1722年にサンダーランド伯が死去したことで、ジャントーは歴史の舞台から姿を消しました。

ジャントーの歴史的意義

ジャントーは、17世紀末から18世紀初頭のイングランド政治において、重要な役割を果たした政治集団でした。イングランド銀行の設立や三年議会法の制定など、現代イギリスの政治制度に繋がる重要な政策に関与し、その影響はその後も長く続きました。彼らが主導した政策や政治的駆け引きは、イギリス政治史を理解する上で欠かせない要素です。また、ホイッグ党内部や他の党派との関係、そして権力闘争を通して、18世紀初頭のイギリス政治の複雑さを垣間見ることができます。ジャントーの興亡は、権力闘争の激しさ、そして政治的変化の速さを示す、興味深い事例と言えるでしょう。

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