ジャンプシート (人工衛星)

ジャンプシート（英語：Jumpseat、別名：AFP-711）は、1970年代から1980年代にかけてアメリカ合衆国国家偵察局（NRO）とアメリカ空軍（USAF）が共同で開発・運用した、極めて機密性の高い信号情報（シギント）収集のための偵察衛星シリーズです。その存在や活動内容に関する情報は厳重に秘匿されており、現在一般に公開されている情報の多くは、観測データや元関係者の証言に基づく推測が含まれています。

この衛星プログラムの主要な目的は、冷戦期においてソビエト連邦が構築した弾道弾迎撃ミサイルシステムの運用状況、特にその追跡・誘導レーダーから発せられる信号を傍受・分析することでした。ソ連の戦略的な防衛能力に関する情報を収集することは、アメリカの安全保障にとって極めて重要であったため、ジャンプシートは最優先のプロジェクトの一つとして進められました。

記録によると、ジャンプシート衛星は1971年3月21日から1983年7月31日までの期間に、合計で7機が打ち上げられたと考えられています。打ち上げは全て、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地（VAFB）の第4発射施設（SLC-4W）から行われました。使用されたロケットは、強力なタイタンIIIBで、上段には軌道投入・調整用の液体燃料ロケットであるアジェナが用いられました。しかし、全ての打ち上げが成功したわけではありません。シリーズで2番目に打ち上げられた機体は、上段アジェナの性能が十分に発揮されなかったことが原因で、当初予定していた軌道に乗せることができず、結果としてミッションに失敗したとされています。

衛星自体の設計と製造は、航空宇宙企業のヒューズ・エアクラフトが担当しました。衛星の重量は約700キログラムとされています。

ジャンプシート衛星は、モルニヤ軌道と呼ばれる特殊な楕円軌道に投入されました。この軌道は、大きな軌道傾斜角（約63度）を持ち、約12時間の周期で地球を周回します。モルニヤ軌道は、地球の高緯度地域、特にソ連（現在のロシア）のような国の上空に長時間滞在できるという特徴があります。これは、目的であるソ連のレーダー施設が高緯度地域に多く存在していたことと密接に関連しています。興味深いことに、この軌道はアメリカの衛星データシステム（SDS）中継衛星が使用する軌道とほぼ同じであり、これはデータ中継などにおける相互運用性を示唆している可能性もあります。

プロジェクト全体が高度な機密下に置かれていたため、ジャンプシート衛星の具体的な能力や、収集された情報の詳細、運用におけるエピソードなどはほとんど公開されていません。したがって、多くの技術的仕様や運用状況に関する記述は、外部からの観測や既存資料からの推測に基づいたものとならざるを得ません。

現在、ジャンプシート衛星シリーズは既に運用を終了し、退役しています。その役割は、後継のシギント偵察衛星シリーズである「トランペット」（後に「アドバンスト・トランペット」やその他の名称で知られる）などに引き継がれています。

本シリーズに関するより詳細な情報は、国家安全保障アーカイブが編集した「U.S. Military Uses of Space, 1945-1991 Vol 1, Guide」などの参考文献、宇宙開発関連のデータベースや専門サイトの記載を参照することが推奨されます。

もう一度検索