ジャン・カスー

ジャン・カスー：作家、美術評論家、そしてレジスタンス活動家

ジャン・カスー(1897-1986)は、20世紀フランスを代表する文化人の一人です。作家、美術評論家、スペイン文学研究者、翻訳家という多彩な顔を持つ一方、ナチス・ドイツへの抵抗運動にも深く関わりました。その激動の人生と多様な業績を、詳細に見ていきましょう。

生い立ちと初期の活動

1897年、スペインのビルバオ近郊で、フランス人父とスペイン人母の間に生まれたカスーは、幼少期からフランス語とスペイン語のバイリンガル環境で育ちます。スペイン文化への造詣は、母の影響が大きかったと言われています。パリで青年時代を過ごした後、文芸誌『メルキュール・ド・フランス』の事務員として働きながら、ソルボンヌ大学でスペイン語を専攻しました。

在学中には友人たちと文芸誌を創刊し、詩人ピエール・ルイスの秘書を務めるなど、早くから文筆活動を始めます。1920年にはキュビスムに関する記事を発表し、1921年から『メルキュール・ド・フランス』でスペイン文学の連載を担当するなど、文学と美術、特に近代美術への関心を深めていきました。

スペイン文学と政治への関与

カスーはスペイン文学、特に「98年世代」と呼ばれる作家たちに強い関心を抱いていました。1923年のスペインにおける独裁政権樹立と、翌年のウナムーノ追放事件は、カスーに文学と政治の不可分な関係を痛感させました。ウナムーノのフランス亡命後は親交を深め、その著作の仏語翻訳にも携わっています。

その後、スペイン第二共和政を支持し、スペイン内戦勃発時にはスペインに渡り、共和政政府要人と会見。帰国後、フランス政府に共和政への支援を訴えるなど、スペイン共和派への熱心な支持を表明しました。

反ファシズム運動とレジスタンス

1930年代、カスーは先鋭的な反ファシズム活動家として知られるようになります。ヒトラー政権成立直後から、反ファシズム運動に参加し、機関誌への寄稿や反ファシズム知識人グループでの活動などを通して、ファシズムへの抵抗を呼びかけました。

1936年には反ファシズム系の文芸誌『ユーロープ』の編集長に就任し、知識人への呼びかけを続けました。しかし、1939年の独ソ不可侵条約締結を機に共産党と決別し、『ユーロープ』編集長を辞任しています。

第二次世界大戦が始まると、カスーはナチス・ドイツ占領下のフランスでレジスタンス活動に身を投じました。複数のレジスタンスグループに参加しますが、1941年末には逮捕され、収監生活を送ることになります。収監中も詩作を続け、1944年には地下出版で詩集を発表しました。

解放後はトゥールーズ共和国委員に任命され、解放後の行政再構築に貢献。戦後には、再び『ユーロープ』編集長を務め、作家の全国委員会や全国知識人同盟の会長も歴任しました。

共産主義との複雑な関係

カスーはレジスタンス運動において共産党と協力関係にありましたが、その関係は複雑でした。スターリン政権への批判や、ユーゴスラビアのチトーへの支持などを通して、次第に共産主義への疑問を深めていきます。

1949年にはハンガリー動乱を契機にスターリニズムと完全に決別し、『ユーロープ』誌を去り、共産主義批判を表明しました。このことは、共産党からの激しい批判を招くことになります。

美術行政と晩年

戦後、カスーは国立近代美術館の主任学芸員（館長）に就任。近代美術コレクションの収集・整備に貢献しました。1965年には高等研究実習院で芸術社会学を教えるようになりました。1986年、パリで死去。

結論

ジャン・カスーは、作家、美術評論家、レジスタンス活動家として、20世紀フランスの文化・政治史に大きな足跡を残しました。多様な活動を通して、常に時代と対峙し続けた彼の生涯は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。彼の業績は、文学、美術、歴史、政治といった分野を横断的に理解する上で、欠かせないものです。

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