ジャン・ジェルソン

ジャン・ジェルソン（Jean Gerson）

ジャン・ジェルソンは、14世紀から15世紀にかけて活躍したフランスの神学者であり、教会政治家としても重要な役割を果たしました。彼は1363年12月14日に生まれ、1429年7月12日に亡くなりました。その生涯は、教会大分裂（シスマ）という危機の時代に、教会の統一と改革のために尽力したことで特徴づけられます。

生い立ちと青年期

ジェルソンは、敬虔な両親のもと、12人兄弟の7番目として生まれました。兄弟の多くが修道者になったことからも、信仰深い家庭環境で育ったことがうかがえます。14歳でパリ大学のナバール・カレッジに入学し、自由学芸を修めた後、神学を学びました。彼はピエール・ダイイの薫陶を受け、ダイイはジェルソンの生涯における師であり、友人となりました。

ジェルソンは早くからその才能を発揮し、1383年から1384年にかけてパリ大学フランス人学生団の代表に選ばれました。1387年には、パリ大学代表団の一員として、教皇庁へ問題の説明に赴くという大役を担いました。この問題は、ドミニコ会士モンテソノが聖母マリアの原罪をめぐって論争を起こし、大学から追放された事件に関連するものでした。モンテソノが教皇クレメンス7世に直訴したため、ジェルソンはダイイと共にアヴィニョンへ赴きました。このアヴィニョンへの旅は、マルティン・ルターのローマへの旅と比されることがあり、ジェルソンは教会の現状に心を痛め、教会改革への決意を固めたとされています。

教会再一致への情熱

1392年に博士号を取得したジェルソンは、1395年にピエール・ダイイの後任として、32歳という若さでパリ大学総長に選出されました。改革への情熱に燃えるジェルソンのもとで、パリ大学は最盛期を迎えました。彼は大学の自治を主張するとともに、研究環境の向上と聖職者の道徳的向上に尽力しました。この時代、ジェルソンは職責の重さに悩み、多くの書簡や著作の執筆に追われていたとされています。

ジェルソンの最大の功績は、教会大分裂の克服に貢献したことです。1378年のグレゴリウス11世の死後、教会には2人の教皇が並立するという異常事態が発生しました。ジェルソンは、ピエール・ダイイらと共に、教会分裂の収拾に向けて、「協議の道」「妥協の道」「公会議の道」という3つの解決策を提示しました。彼は、教皇たちとの協議による解決を模索しましたが、最終的には公会議の開催へと期待を移していきました。

コンスタンツ公会議

事態は、公会議の開催によって解決せざるを得ない状況になっていました。ピサ教会会議が、第3の教皇を立てるという混乱を引き起こしたからです。ジェルソンは、公会議において、教会の統一を実現するとともに、オルレアン公ルイ暗殺を支持した神学者ジャン・プティの弾劾を確定させようとしました。彼の熱意は皇帝ジギスムントを動かし、コンスタンツ公会議が開催されました。

コンスタンツ公会議では、3人の教皇が廃位または退位し、新たな教皇が選出され、教会分裂は終結しました。この公会議は、公会議の権威が教皇権よりも優位にあることを確認したことで知られています。しかし、ジェルソン自身は、公会議の権威が適用されるのは、教会分裂のような非常事態に限られると考えていました。また、これまで彼が書いたとされてきた教会改革に関する主要な著作も、実際には別の人によって書かれたものだということが研究によって明らかになっています。

皮肉なことに、ジェルソンはこのコンスタンツ公会議によって没落することになります。ジャン・プティの弾劾が、ブルゴーニュ公の圧力によって却下されたためです。ジェルソンは故国に帰ることを諦め、コンスタンツやラッテンベルクに滞在し、『神学のなぐさめ』などの著作を執筆しました。

晩年

晩年、ジェルソンは弟が修道院長を務めるリヨンに移り住みました。彼は子供たちに勉強を教え、その代金として、自分の魂の救いのために祈ってほしいとだけ求めました。この時期、彼は神秘神学に関する信心書を執筆し、それらの著作が『キリストにならう』であると長らく考えられていましたが、実際にはトマス・ア・ケンピスによるものであることがわかっています。

ジャン・ジェルソンは、1429年7月12日にリヨンで生涯を閉じました。彼の生涯は、教会大分裂という困難な時代に、教会の統一と改革のために尽力した、高潔な神学者の姿を伝えています。

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