ジャン＝アンドレ・リクセン

ジャン＝アンドレ・リクセン（Jean-André Rixens、1846年11月30日 - 1925年2月21日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてフランスで活躍した著名な画家です。現在のオート＝ガロンヌ県に位置するサン＝ゴーダンスの地で、靴職人を父に持ち生を受けました。

若き日のリクセンは、地元の高校を卒業後、1860年にトゥールーズの美術学校に入学し、画家としての道を歩み始めます。家計が豊かなわけではなかったため、彼はアルバイトをしながら絵画を学び続けるという苦労を経験しました。しかし、その努力は実を結び、1866年には彼の歴史画作品がトゥールーズ市の栄えある賞を獲得し、奨学金を得る機会に恵まれます。

奨学金を手にパリへ上京したリクセンは、芸術の殿堂である国立高等美術学校に入学し、歴史画家のアドルフ・イヴォンの指導を受けました。その後は、より写実的な作風で知られる大家、ジャン＝レオン・ジェロームのアトリエに移り、研鑽を積みました。ジェロームのもとでは、後に時代の寵児となる画家アルフレッド・ロルとも親交を結び、互いに刺激を与え合いながら技術を高めていきました。

若手画家にとって重要な登竜門であるローマ賞には、1870年に初めて挑戦しましたが、この時は受賞に至りませんでした。しかし、1873年の再挑戦では見事に2位に入賞するという快挙を成し遂げます。この受賞作は州によって買い上げられ、彼の故郷であるサン＝ゴーダンスに展示されることになり、地元での名声を確固たるものとしました。この成功を足がかりに、リクセンは歴史画家としての地位を着実に固めていきます。

ローマ賞受賞後、リクセンはフィレンツェとローマを旅し、イタリア古典美術から多くのインスピレーションを得ました。1880年代に入ると、彼の活動はさらに活発化します。精力的に個展を開催する一方で、当時台頭し始めていた国際絵画展にも積極的に作品を出品し、その名を広く知られるようになりました。特に、その洗練された技法で描かれた肖像画は評判を呼び、上流階級の人々からの注文が多数寄せられるようになります。1889年に開催されたパリ万国博覧会の展覧会では、出品作が金賞を受賞するという輝かしい成果を収め、国際的な評価を不動のものとしました。

リクセンはまた、当時のフランス芸術界を代表する巨匠たち、すなわちエルネスト・メソニエ、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、オーギュスト・ロダンらとともに、革新的な芸術家の団体である国民美術協会の設立に尽力し、その初期メンバーとして重要な役割を果たしました。

1890年代に入ると、リクセンの作風には変化が見られるようになります。伝統的な写実主義を基盤としながらも、当時の新しい潮流であった印象派の影響を受けたかのような明るい色彩や光の表現を取り入れた作品も描くようになり、表現の幅を広げました。肖像画や歴史画に加え、多くの公共施設の装飾画制作も手掛け、その多才ぶりを発揮しました。また、その芸術的な功績が認められ、1889年には国家からレジオンドヌール勲章（シュヴァリエ）を授与されています。

ジャン＝アンドレ・リクセンは、アカデミックな教育で培った確かな技術と、時代の変化を取り入れる柔軟性をもって、多岐にわたる分野で優れた作品を残しました。1925年2月21日にその生涯を閉じましたが、彼の作品は現在も多くの美術館に収蔵されています。

もう一度検索