ジャン＝クロード・マルゴワール

ジャン＝クロード・マルゴワール（Jean-Claude Malgoire, 1940年 11月25日生 - 2018年4月14日没）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活動したフランスを代表する指揮者の一人です。特にバロック音楽の分野における歴史的演奏法の探求と実践において、重要な役割を果たしました。

音楽家としての出発

音楽家としてのキャリアの第一歩は、管楽器奏者としてでした。当初はコーラングレ（コール・アングレ）の奏者として活動しており、フランス有数のオーケストラであるパリ管弦楽団に所属していました。しかし、彼の音楽的関心は次第に広がり、演奏者から解釈者、すなわち指揮者へとその活動の中心を移していくことになります。

王室大厩舎・王宮付楽団の創設

マルゴワールの音楽家としての道を決定づけたのは、1966年に彼が自らの手で設立したアンサンブルの存在です。彼は「王室大厩舎・王宮付楽団」（La Grande Écurie et la Chambre du Roy）を組織しました。この楽団名は、フランスのルイ14世時代の宮廷に実在した、それぞれ屋外と屋内の儀式音楽を担う楽団の名前に由来しています。この名称が示唆するように、マルゴワールは創設した楽団において、17世紀から18世紀にかけての音楽、特にフランス・バロック音楽を、作曲当時の様式や楽器を用いて演奏する「歴史的演奏法（ピリオド・パフォーマンス）」を実践することを活動の根幹に据えました。

楽団の設立と同時に、マルゴワールは楽器奏者としての活動に終止符を打ち、指揮者として王室大厩舎・王宮付楽団を率いることに専念するようになります。彼は文献研究に基づいた当時の演奏慣習の解釈や、古楽器（ピリオド楽器）の使用を通して、現代の楽器による演奏とは異なる、バロック音楽が本来持っていた響きや表現の可能性を探求しました。

バロック音楽演奏のパイオニアとして

王室大厩舎・王宮付楽団と共に、マルゴワールはバロック音楽、とりわけフランス・バロックの作曲家リュリ、ラモー、クープランなどの作品の蘇演に尽力しました。また、ヘンデルやバッハといった国際的なバロックの大家の作品も積極的に取り上げ、歴史的アプローチによる演奏を広く紹介しました。彼らの演奏は、現代の楽器による豊かで滑らかな響きとは異なり、ピリオド楽器特有のクリアで色彩感豊かな音色、楽譜に記された音符の背後にある時代の呼吸を再現しようとするフレージングやアーティキュレーションによって特徴づけられました。これは、当時の音楽界における歴史的演奏法ムーヴメントの盛り上がりとも呼応しており、マルゴワールはその主要な推進者の一人として認識されるようになりました。

彼の探求心は楽譜の音符を追うだけにとどまらず、作品が生まれた社会的、文化的背景にも及んでおり、それが彼の演奏に深みを与えていました。多くの録音を通じて、彼は自らの音楽的理念を世界に発信し、バロック音楽の新たな魅力を多くの聴衆に伝えました。

後期の活動とオペラ

バロック音楽を主軸とする一方で、マルゴワールはレパートリーを拡大する柔軟性も持ち合わせていました。晩年にかけては、バロック時代にとどまらず、古典派初期の作品、特にオペラに強い関心を示しました。ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルやヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの歌劇を歴史的演奏法のアプローチを取り入れつつ指揮し、作品の劇的な表現と当時の音楽語法の融合を試みました。これらのオペラ演奏は、彼の音楽的視野の広さを示すとともに、時代を超えて作品の本質に迫ろうとする彼の姿勢を反映していました。

遺したもの

ジャン＝クロード・マルゴワールが歴史的演奏法に基づいた音楽活動を通じてフランス内外に残した功績は大きいと言えます。彼が創設し長年率いた王室大厩舎・王宮付楽団は、数々の録音と演奏会を通じて、忘れられかけていたバロック作品に光を当て、あるいはよく知られた作品に新たな光を当ててきました。彼の音楽に対する情熱と、時代様式への深い洞察は、後進の音楽家たちにも少なからぬ影響を与え、歴史的演奏法に基づく演奏の普及と発展に貢献しました。

死去

フランス音楽界の重要な人物として長年にわたり活躍したジャン＝クロード・マルゴワールは、2018年4月14日に77歳でその生涯を終えました。彼の死去は、歴史的演奏法における第一人者を失うものでしたが、彼が残した豊穣な音楽的遺産は、今後も聴衆や研究者によって受け継がれていくことでしょう。彼の音楽は、時代を超えて今なお多くの人々に感動を与え続けています。

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