ジャン＝バティスト・マドウ

ジャン＝バティスト・マドウ（Jean-Baptiste Madou）

ベルギーの版画家、イラストレーター、そして画家であるジャン＝バティスト・マドウは、1796年2月3日にブリュッセルで生を受け、1877年4月3日にこの世を去った多才な芸術家です。特にベルギーにおけるリトグラフ技法の開拓者として知られています。

生涯と初期の活動

経済的に恵まれない家庭に育ったマドウでしたが、地元の後援者の支援を得て教育を受ける機会に恵まれました。ブリュッセルの美術学校に進み、アントワーヌ・ブリスやピエール・ジョセフ・セレスタン・フランソワといった師事を受けます。1813年には早くも展覧会で賞を獲得するなど、その才能の片鱗を見せましたが、翌1814年に父親が亡くなったため、家計を支えるべく公職に就くことになります。コルトレイクに本部を置く軍事部門で製図の職を得た彼は、地図制作に携わる傍ら、軍学校で教鞭を執るようになります。また、コルトレイクの美術学校にも通い、22歳で地元の美術アカデミーの名誉会員に推挙されるなど、この地でも美術活動を続け、展覧会への出品も行っていました。

リトグラフのパイオニアとして

その後ブリュッセルに戻ったマドウは、当時勃興しつつあったリトグラフ工房を営んでいたマルセラン・ジョバールの下で、版画の原画制作を担当する機会を得ます。この新しい技法に深く習熟した彼は、ジャン＝ジョゼフ・デ・クローエの著書『風光明媚なオランダ王国の旅』（1825年）など、数多くの書籍挿絵を手がけました。1830年代に入ると、自身の名義による版画集を次々と発表し、その評価はパリやロンドンといった国外にも及びました。この頃には、オランダ王室のメンバーや社会の有力者からの肖像画制作依頼も舞い込むようになり、その人気は確固たるものとなります。1836年のブリュッセルで開催された展覧会では、「1400年から現代までのヨーロッパ社会の顔貌（La Physionomie de la société en Europe depuis 1400 jusqu'à nos jours）」と題された作品が金賞を受賞し、その地位を不動のものとしました。

絵画への転換と晩年

1833年には、著名な統計学者・天文学者であるアドルフ・ケトレーの異父妹と結婚し、当時の知識人サークルとの交流を深めました。しかし、1840年代に入りリトグラフの需要が減退する中、妻の勧めもあり、版画制作から油彩画へと活動の中心を移します。特に17世紀オランダの巨匠、アドリアーン・ブラウエルやヤン・ステーンに連なる風俗画を手がけ、ブリュッセルやパリでの展覧会で高い評価を獲得しました。絵画分野でも国内外で高い人気を博すこととなります。

また、初期の動画装置として知られるフェナキストスコープの発明者、ジョゼフ・プラトーとは親交が深く、1850年代には共同で様々な回転盤（ディスク）の制作に取り組んだことでも知られています。同時期には王室の子弟たちの絵の教師も務めました。

晩年まで創作意欲は衰えず、精力的に活動を続けましたが、1877年3月、レオポルド2世臨席のもと開催されたベルギー王立科学芸術アカデミーの式典中に脳卒中を発症し、その3日後に帰らぬ人となりました。マドウは、リトグラフのパイオニアとしてベルギーの美術史に名を刻むとともに、絵画においても確かな評価を得た、まさにベルギーを代表する芸術家の一人と言えるでしょう。

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